原発性副甲状腺機能亢進症
Primary Hyperparathyroidism
概要
副甲状腺とは
副甲状腺は、甲状腺の後ろ側に左右2個ずつ、通常4個存在する小さな内分泌腺で、直径は5mm程度の米粒大です。この副甲状腺から分泌される“副甲状腺ホルモン(PTH)”は、骨・腎臓・腸管に作用して血液中のカルシウム濃度を調整し、体内のカルシウムバランスを保つ重要な役割を担っています。
原発性副甲状腺機能亢進症とは
原発性副甲状腺機能亢進症は、副甲状腺からのPTH分泌が過剰になることにより、血液中のカルシウム濃度が異常に高くなる病気です。これにより、骨量減少(骨粗鬆症)や腎結石などの臓器障害を引き起こすことがあります。
かつては明らかな症状が出てから診断されることが一般的でしたが、現在では健康診断や骨粗鬆症の精査で、症状のない段階で偶発的に発見されるケースが増えています。
また、若年で発症する場合には、多発性内分泌腫瘍症(MEN)などの遺伝性疾患が背景にあることもあります。
診療方針
当クリニックでは、日本内分泌学会・日本骨代謝学会・日本内分泌外科学会による原発性副甲状腺機能亢進症の診療ガイドラインを基本に、国際的には2022年に発表された第5回国際ワークショップ(Fifth International Workshop, 2022)の提言や、米国内分泌外科学会(AAES)によるガイドライン(2016年)、およびオンライン医学テキスト「UpToDate」 に準拠します。
ガイドライン・参考文献
- 日本内分泌学会、日本骨代謝学会、日本内分泌外科学会による原発性副甲状腺機能亢進症の診療ガイドライン
- Evaluation and Management of Primary Hyperparathyroidism: Summary Statement and Guidelines from the Fifth International Workshop.
J Bone Miner Res. 2022 Nov;37(11):2293–2314. - American Association of Endocrine Surgeons (AAES)
Guidelines for Definitive Management of Primary Hyperparathyroidism (2016)
初診時の主な診療内容
1. 身長・体重測定、院内血圧測定(2回測って平均値を取ります)を行います
| 問診と診察 |
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|---|---|
| 検査 |
初診時に心電図、胸部レントゲン、血液生化学検査、尿検査などをおこないます。 原発性副甲状腺機能亢進症の診断・評価のため、必要に応じ段階的に以下の検査を行います。
※核医学検査(副甲状腺シンチグラムなど)が必要な場合は、連携医療機関にご紹介いたします。 |
2. 診察と検査結果に基づきリスク評価を行います。
原発性副甲状腺機能亢進症の診断を行い、次の点を評価します。
- 症候性(骨折歴、腎結石、骨粗鬆症など)の有無
- 無症候性の場合でも、ガイドラインに基づく手術適応の有無(血清カルシウム値、骨密度、年齢、腎機能など)
3. 治療方法
リスク評価に基づき、治療方針を個別に決定します。
【外科的治療(副甲状腺摘出術)】
- 明確な手術適応がある場合には、連携する専門施設をご紹介します。
【内科的治療(保存的治療)】
- 手術を希望されない場合や、手術困難な場合には、内科的に保存治療を行います。
- 血中カルシウム濃度が高い場合は、カルシウム受容体作動薬を使用することがあります。
- 骨粗鬆症を伴う場合は、ビスホスホネート製剤を中心とした骨粗鬆症治療を併用する場合があります。
- 生活指導(適切な水分摂取、過剰なカルシウム摂取の回避など)を行い、定期的に血液・尿検査や骨密度測定を行いながらフォローアップします。
原発性副甲状腺機能亢進症 Q&A
- Q1. 病気の原因はなんですか?
- A1. 原発性副甲状腺機能亢進症の多くは、副甲状腺にできる良性の腫瘍(腺腫)が原因で、ホルモン(PTH)が必要以上に分泌され、血液中のカルシウム濃度が高くなります。
4つある副甲状腺すべてが大きくなる「過形成」や、ごくまれに悪性腫瘍(副甲状腺癌)が原因となることもあります。 - Q2. この病気は遺伝しますか?
- A2. 多くは遺伝しませんが、ごく一部において「多発性内分泌腫瘍症(MEN)」という遺伝性の病気の一症状として発症することがあります。家族に同じ病気の方がいる、若くして発症した、複数の腺に病変がある場合は、遺伝性の可能性を考慮します。
- Q3. どのような症状がでますか?
- A3. 軽症例では自覚症状が無い(無症候性)に経過することが多いですが、著明な高カルシウム血症や過剰なPTH分泌の影響により、以下のような症状が現れることがあります。
- 骨代謝異常:骨密度の低下を来し、脊椎・大腿骨などにおける骨折リスクが上昇します(骨粗鬆症)。
- 腎障害:カルシウム排泄が増加し、腎結石や腎機能障害をきたすことがあります。
- 消化器症状:食欲低下、悪心、便秘、胃・十二指腸潰瘍のリスク増加が報告されています。
- 神経・精神症状:全身倦怠感や、重度の高カルシウム血症では意識障害や錯乱を呈することもあります。
- その他:多尿や口渇、筋力低下など、電解質異常に関連した症状が出現する場合もあります。
- Q4. どのような検査をおこないますか?
- A4. 生化学的検査と生理画像診断の組み合わせが基本です。
- 血液検査:血清カルシウム高値およびPTH高値(またはPTHが血清カルシウムに対して相対的に高値)を確認します。
- 尿検査:カルシウム排泄量の測定を行い、特に鑑別として家族性低カルシウム尿性高カルシウム血症との区別が重要です。
- 画像検査:副甲状腺病変の局在診断として頸部超音波検査、99mTc-MIBIシンチグラムが有用です。CTやMRIなども補助的に活用されます。
- 骨・腎評価:骨粗鬆症の評価、腹部エコーによる腎臓結石の評価などを行います。
- Q5. どのような場合に手術が考慮されますか?
- A5. 副甲状腺摘出術は唯一の根治療法です。次のような場合、無症候性であっても手術が推奨されます。
- 血清カルシウム値が正常上限+1.0 mg/dL以上
- 骨密度Tスコアが-2.5以下(骨粗鬆症)
- 推算糸球体濾過量(eGFR) <60 mL/minまたは腎結石の既往
- 50歳未満
- 手術適応と判断される症候性患者(骨折歴、多発結石など)
- Q6. 手術後に再発することはありますか?
- A6. 適切な手術により、多くの場合PTHとカルシウム値は正常に戻ります。再発はまれですが、特に複数の腺に病変がある場合や、腺の取り残し、特殊な場所に腺がある場合には注意が必要です。手術後も定期的なフォローアップが大切です。
- Q7. 手術以外の治療法(経過観察や薬物療法)についても教えてください
- A7. 軽症例や手術適応外の症例では、経過観察が選択されます。
評価項目:血清カルシウム、PTH、骨密度、腎機能、尿中カルシウム排泄量など
薬物療法としては以下の選択肢があります:- ビスホスホネート製剤:骨からのカルシウム放出を防ぐことで骨密度改善を目的とします。
- カルシウム受容体作動薬(シナカルセト、エボカルセト):副甲状腺のカルシウム受容体を活性化し、PTH分泌を抑制します。血清カルシウム値の低下に有効であり、手術が困難な場合や再発した場合に使用されます。
ただし、いずれも根治的治療ではなく、あくまで対症療法にとどまるため、長期的なモニタリングが必須です。
- Q8. この病気にかかっていても日常生活は普通に送れますか?
- A8. 軽症であれば多くの方は普段どおりの生活を送ることができます。ただし、骨や腎臓への影響を防ぐため、放置せずに定期的に検査を受けることが大切です。手術後も、カルシウムとホルモンのバランスを見ながら適切に管理を続けることで、支障なく日常生活を送ることができます。
