糖尿病

DIABETES

概要

糖尿病は、血液中の糖(血糖=ブドウ糖=グルコース)が異常に多くなる病気です。
代表的な現代病の一つであり、日本では予備軍も含め約2,000万人(実に国民の6人に一人)の患者さんがいると推定され、その数は増加傾向にあります。病初期にはほとんど無症状であり、病気が進行すると口渇・多飲・多尿、急速な体重減少などが現れてきます。慢性的な高血糖状態が長期間続くと小さな血管(細小血管)障害や動脈硬化を生じ、その結果重大な合併症を起こします。

糖尿病の合併症には、3大合併症である神経症・網膜症・腎症およびそのほかに足病変(壊疽)、虚血性心疾患(狭心症や心筋梗塞)、脳梗塞などがあります。これらが生じると生命に危険を及ぼしたり日常生活に支障をきたし生活の質(QOL)を著しく損なうこともあります。

また近年、糖尿病は心不全の原因としてもクローズアップされています。我が国では心不全による入院や死亡が激増して「心不全パンデミック」といわており、その予防のため糖尿病の適切な管理は更に重要となっています。

また、2型糖尿病でも比較的急速に発症した場合や気づかずに重症化した場合や1型糖尿病では、糖尿病性ケトアシドーシスや高浸透圧性脳症など命にかかわる合併症により危険な状態になることもあります。

一方で多くの場合無症状で経過することがほとんどであり、血液検査による血糖・ヘモグロビンA1cの測定と早期の診断により適切な生活習慣の改善と発症予防、必要に応じたお薬による治療が、合併症の予防に重要です。健診などで異常を指摘された場合には速やかに医療機関を受診しましょう。

診療方針

当クリニックでは基本的に日本糖尿病学会や米国糖尿病学会のガイドライン最新版に準拠します。
食事療法に関しては基本的に「ゆるやかな糖質制限食」を支持・推奨しています。

食事に関する詳細は Q14 をご覧ください。

ガイドラインなど最新版(2022年5月時点)
  • 日本糖尿病学会 糖尿病診療ガイドライン2019
  • 日本糖尿病学会 糖尿病治療ガイド 2022-2023
  • American Diabetes Association. Standards of Medical Care in Diabetes-2022
  • 日本循環器学会・日本糖尿病学会 糖代謝異常者における循環器病の診断・予防・治療に関するコンセンサス ステーテトメント 2020

当クリニックでの糖尿病診療および診療案内の内容に関してご留意いただきたいこと

当クリニックでは成人2型糖尿病、1型糖尿病、妊娠糖尿病の診療が可能です。
1型糖尿病に関しては、病状安定した方の持続皮下インスリン注入療法(インスリンポンプ)も受け入れ可能です。
※詳細はお問い合わせください。

初診時の主な診療内容

1. 身長・体重測定、院内血圧測定(2回測って平均値を取ります)

問診と診察 現在および過去の健康問題や症状に関してお話をうかがい診察を行います。
検査 血液生化学検査、尿検査、合併症のチェックのため胸部レントゲン、心電図、ABI、心エコーなど

2. 基本治療方針の決定

診察と検査結果に基づき治療の基本方針を説明し、合意をいただいて決定します。

3. 治療方法

基本は生活習慣の改善です。詳細は Q13Q14 を参照ください。

お薬

詳細は Q16 をご参照ください。

お薬の開始時期に関しては、患者さんの生活習慣なども考慮しひとりひとりの状況に応じて判断します。一般的な目安として食事療法と運動を2〜3か月続けても目標の血糖コントロールを達成できない場合に薬物療法を開始します。
1型糖尿病の治療はインスリン療法を基本とします(1型糖尿病については糖尿病Q&Aの Q2Q3を参照)。

再診(1か月毎の定期通院)

1. 治療効果の判定と副作用のチェック

診察と血液・尿検査結果に基づき治療効果を判定、生活習慣の確認と見直し、お薬の効果と副作用、合併症などをチェックします。

2. 生活習慣(食事と運動)の改善指導

特に食事は、「ゆるやかな糖質制限」(詳細は Q14 )を基本とします。

3. 薬剤の選択

お薬は下記の選択が原則ですが、腎機能や心機能などその他の要因によって患者さんひとりひとりに最適な薬剤を選択します。

2型糖尿病の主な治療薬

各種ガイドラインの推奨に基づき下記処方を基本としております。(糖尿病Q&Aの Q16 参照)

〈第1選択薬〉 ビグアナイド(BG)薬
SGLT-2阻害薬
〈第2選択薬〉 GLP-1受容体作動薬
DPP-4阻害薬(GLP-1受容体作動薬が使用困難な場合)
〈第3選択薬〉 インスリン
〈第4選択薬〉 スルホニルウレア(SU)薬

1型糖尿病の治療

インスリン分泌が著明に低下した状態で発見されることが多く(劇症型や急性発症型)、高血糖緊急症を呈する際は急性期治療として点滴で脱水補正とインスリン治療を行い、入院施設への救急搬送が必要になります。
緩徐進行1型糖尿病は数年単位でインスリン量が低下してくる病態であり、比較的少量のインスリン注射量で経過良好な例もあります(糖尿病Q&Aの Q3 参照)。

継続治療として良好な血糖コントロールを維持するためには、強化インスリン療法が理想的です。標準的なものは、頻回注射療法もしくは持続皮下インスリン注入療法(インスリンポンプ※)です。高齢者では社会環境などを考慮して注射回数などを考慮する場合もあります。

※インスリンポンプは入院での導入が安全です。必要時は適切な医療機関へご紹介させていただきます。当クリニックでは導入の相談や導入後のインスリンポンプ療法に対応いたします。
なおインスリン療法を基本として、1型糖尿病でも適応のある経口薬があります。
Na⁺/ブドウ糖共役糖輸送体(Na⁺/glucose cotransporter: SGLT)2阻害薬の一部:イプラグリフロジンとダパグリフロジンです。

4. 治療の目標

HbA1cを指標に治療を行います。詳細は Q19 を参照ください。

  • 血糖正常化を目指す場合:HbA1c <6.0%
  • 合併症予防:HbA1c <7.0%
  • 強化治療が困難な場合:HbA1c <8.0%

糖尿病 Q&A

Q1. 糖尿病とはどのような病気ですか?
A1.

血液中の糖(血糖=ブドウ糖=グルコース)が異常に多くなる病気です。血糖はホルモンによってコントロールされています。血糖をあげるホルモンは多くありますが、下げるホルモンはインスリンだけです。このインスリンが不足したり(1型糖尿病)、働きが悪くなったり(2型糖尿病)して血糖が上がります。

慢性的な高血糖状態が続くと、血管に障害をきたし様々な合併症を起こしてきます。合併症が生じると生活の質が大きく損なわれたり生命にかかわるため、合併症が起きないよう糖尿病をしっかりと管理・治療することが大切です。

“しっかりと管理・治療することが大切です。”
日本糖尿病学会が提示する「1型」「2型」「その他の特定の機序・疾患によるもの」「妊娠糖尿病」の4分類に大きく分けられます。ひとくくりに糖尿病といっても、その原因は様々で病態も患者さん個々で異なります。

Q2. 1型糖尿病とはどのような病気ですか
A2.

1型糖尿病では主に自己免疫による膵臓の炎症によって、体内で唯一インスリンを作る細胞である膵β細胞が破壊されます。その結果、インスリン分泌が低下し細胞でのブドウ糖の取り込みに問題が生じ血糖値が上がります。
本邦では、発症・進行の様式により3タイプに分けられます(劇症、急性発症、緩徐進行型)。

基本的にはインスリンを補充しないと生命の危機に瀕するようなインスリン欠乏状態となります。適切なインスリン補充を行うことが重要です。
1型糖尿病の原因は未だはっきりしていない部分も多いですが、多くは自己免疫と呼ばれる機序をもとに膵β細胞が破壊されます。遺伝素因に加え何らかの誘因やウイルス感染などの環境因子が関与するとされます。自己免疫異常については、早期に膵β細胞に特異的な抗体が産生されることが知られており、血液検査で自己抗体を調べることで診断の手がかりとします。

近年、膵移植や膵β細胞再生療法の研究も盛んで、将来的には根治する疾患となる可能性もありますが、現状ではインスリン療法が基本の治療となります。
良好な血糖管理を行うことで、合併症の進展予防と抑制を目指します。

Q3. 緩徐進行1型糖尿病(SPIDDM)とは、どのような糖尿病ですか?
A3.

血糖を下げる唯一のホルモンであるインスリンは、膵臓のβ細胞で作られて血液中に分泌されています。
緩徐進行1型糖尿病とは、このβ細胞が自己抗体(免疫異常によって生じた自己の臓器を攻撃する抗体)によって徐々に破壊されインスリンが不足することで、高血糖をきたし糖尿病となる病気です。
通常の(急性型や劇症型)1型糖尿病と異なり、比較的ゆっくりと進行するため(通常、「半年〜年」単位です)、よほど重症にならない限り自覚症状がほとんどない2型糖尿病のような状態で発症します。
自己抗体(膵島関連自己抗体:抗GAD抗体や抗IA-2抗体など)があることと自己インスリンが不足していることを血液検査で確認することで診断されます。

緩徐進行1型糖尿病(SPIDDM)の診断基準(2023):日本糖尿病学会

必須項目

  1. 経過のどこかの時点で膵島関連自己抗体が陽性である。
  2. 原則として、糖尿病の診断時、ケトーシスもしくはケトアシドーシスはなく、ただちには高血糖是正のためインスリン療法が必要とならない。
  3. 経過とともにインスリン分泌能が緩徐に低下し、糖尿病の診断後3ヶ月( 典型例は6ヶ月以上)を過ぎてからインスリン療法が必要になり、最終観察時点で内因性インスリン欠乏状態(空腹時血清Cペプチド<0.6ng/ml)である。

判定

上記1、2、3を満たす場合 → 「緩徐進行1型糖尿病(definite)」と診断する。
上記1、2のみを満たす場合 → インスリン非依存状態の糖尿病 → 「緩徐進行1型糖尿病(probable)」

当初は食事療法や内服薬(血糖降下薬)によく反応するのですが、β細胞の破壊が進み自己インスリンが徐々に欠乏することによって注射によるインスリンの補充が必要となります。
この自己抗体を除去する治療法は未だなく、根本的に治すことのできる治療法は残念ながらまだありません。
治療は、通常の1型糖尿病と同じように生活習慣(食事と運動)管理とインスリン自己注射による血糖管理と合併症の予防が主となります。

Q4. 2型糖尿病とはどういう病気ですか?
A4.

最も一般的な病態であり、いわゆる“糖尿病”とは、多くは2型糖尿病を指します。多くは診断時にインスリン依存状態にはないものの、相対的にインスリン分泌が低下した状態とインスリン抵抗性(インスリンが効きにくい病態)が併存した慢性的な高血糖状態を呈します。遺伝的な因子に、過食や運動不足などの後天的な因子が複合的に絡み合って発症します。1型糖尿病や特定の原因によるその他の型を除外して診断します。

2型糖尿病の治療は食事・運動療法などの生活習慣の是正と、薬物療法になります。薬剤については Q16 をご覧ください。合併症予防や生命予後の改善が得られることが科学的妥当性の高い研究で示された薬剤を中心とし、患者さんの合併症や全身状態などを考慮した上で治療方針を決定します。

Q5. 血糖の正常値および糖尿病の基準値を教えてください。
A5.

正常値

空腹時 109mg/dL 以下
75gOGTT
(糖負荷検査 Q9 参照)
2時間値
139mg/dL 以下

糖尿病診断のための血糖値の基準

  境界型 糖尿病型
空腹時採血 110-125mg/dL 126mg/dL 以上
随時採血 140-199mg/dL 200mg/dL 以上
75gOGTT
2時間値
140-199mg/dL 200mg/dL 以上
Q6. 糖尿病の症状を教えてください。
A6.

発症初期には無症状のことがほとんどです。定期的に健診を受けて血糖とヘモグロビンA1c(HbA1c、Q10参照)をチェックし早期発見することが重要です。重症になってくると下記症状が出ます。これらの症状が出現した場合は、一刻も早く医療機関を受診する必要があります。

口渇・多飲・多尿

著しい高血糖状態になると、余分な糖を尿から体外へ排出するために尿量が著しく増加して(多尿)脱水状態になるために喉が渇き(口渇)、たくさんの水を飲むようになります(多飲:ヒトは通常一日に2L程度の水を飲みますが、糖尿病患者さんは3〜5L/日以上飲むようになります)。これらは糖尿病の三徴として知られ、糖尿病の典型的な症状として口渇・多飲・多尿と表現されます。

体重減少

特にダイエットをしているわけでもないのに体重がどんどん減って痩せていき、3〜4ヶ月で10kg以上減少することもあります。

Q7. 糖尿病は治すことができますか?
A7.

残念ながら現在の医学では治すことができません。しかし、近年の血糖コントロールするための検査や薬剤開発は進歩が速く、生活習慣の改善を基本に血糖をしっかりと管理することで合併症を予防することが可能になっています。

Q8. 糖尿病を治療する目的は何ですか?
A8.

生活の質(Quality of Life:QOL)を低下させたり生命を脅かすような合併症の予防です。すなわち、「健康な人と変わらない生活の質(QOL)の維持と、寿命の確保(糖尿病学会)」です。

Q9. 糖尿病の診断はどのように行いますか(診断基準)
A9.

慢性的な高血糖状態にあることを確認することで診断します。

日本糖尿病学会による診断基準

下記1. 2. のいずれかを満たす場合に糖尿病と診断する。
ただし、糖尿型血糖の確認は必須 → HbA1cのみでは診断しない。

  1. 血糖とヘモグロビンA1cが糖尿病型である
  2. 別の日に行った検査で糖尿病型血糖が2回以上認められる
糖尿病型血糖
(次のいずれか)
〈空腹時〉126mg/dL 以上
〈随時〉200mg/dL 以上
〈75gOGTT(糖負荷検査 Q11参照 )2時間値〉200mg/dL以上
糖尿病型ヘモグロビンA1c
(HbA1c Q10参照
6.5%以上

診断の流れ(糖尿病診療ガイドライン2019 診断の指針に準拠)

糖尿病診断の流れ
Q10. ヘモグロビンA1c(HbA1c)とは何ですか?
A10.

過去1〜2か月間の血糖の平均値を表しています。糖尿病の診断と治療効果の指標として最も重要な検査です。

診断の基準

正常 5.5% 未満
境界型 5.6〜6.4%
糖尿病型 6.5% 以上

治療の指標

良好 6.0%未満
合併症の予防 7.0%未満
強化治療が困難な場合 8.0未満
※薬剤による低血糖などの副作用や高度な認知症などその他の理由で強化療法が困難な方です。
Q11. 糖負荷試験(75g OGTT)とはどのような検査ですか?
A11.

糖尿病の診断に用いられる検査です。10時間以上の絶食(カロリーゼロの飲料:水やお茶などは摂取可)状態で来院していただき、空腹時採血 → 75gブドウ糖水を飲水 → 30分後、1時間後、2時間後の3回血糖測定します。同時にインスリン分泌能も血中インスリンを測定してインスリン分泌指数を計算することで評価します。

血糖判定基準

正常 139mg/dL 以下
境界型 140〜199mg/dL
糖尿病型 200mg/dL 以上

インスリン分泌指数

これが低下(0.5以下)していると、糖尿病もしくは境界型でも糖尿病へ進展しやすい状態とされています。

0分(ブドウ糖負荷前)とブドウ糖負荷30分後のインスリン上昇量(mU/mL)と血糖上昇量(mg/dL)の比= (負荷前血中インスリン値 ー 負荷30分後血中インスリン値)/(負荷前血糖値 ー 負荷30分後血糖値)

75g OGTT検査を行う基準として日本糖尿病学会より下記が推奨されています

(日本糖尿病学会 糖尿病診療ガイドライン2019 診断の指針)

1. 強く推奨される場合

空腹時血糖値 110〜125 mg/dL
随時血糖値 140〜199 mg/dL
HbA1c 6.0〜6.4%
(明らかな糖尿病の症状が存在するものを除く)

2. 行うことが望ましい場合

空腹時血糖値 100〜109 mg/dL
HbA1c 5.6〜5.9%

上記を満たさなくても、濃厚な糖尿病の家族歴や肥満が存在するもの

Q12. 境界型糖尿病とはどのような状態ですか?
A12.

いわゆる「糖尿病予備軍」で糖尿病一歩手前の状態です。そのまま放置すると糖尿病への悪化率が高く、動脈硬化性併発症の頻度が増加するため、定期的な検査と予防管理が必要です。具体的には下記の両方もしくはいずれかを満たす状態にある方です。

空腹時血糖 110〜125mg/dL
随時血糖値
もしくは75g OGTT

2時間値
140〜199 mg/dL
ヘモグロビンA1c 5.6〜6.4%
Q13. 血糖を下げるにはどうしたらよいですか?
A13.

生活(食と運動)習慣の改善が最も重要で、薬剤服用の有無にかかわらず糖尿病治療の要です。特に食習慣の是正は重要で、これを行えないと血糖をコントロールするための薬剤の量や種類がどんどん増えていき、最後はインスリン製剤でもコントロール不良な状態になることもあります。

生活習慣の改善を行っても血糖が目標値(HbA1c 7.0%未満:Q16参照)に到達できない場合に、薬剤を開始します。薬剤の詳細は Q16 を参照下さい。

Q14. 食事に関して教えてください。
A14.

当クリニックでは基本的に山田 悟 先生(北里大学北里研究所病院 糖尿病センター長)が提唱されているゆるやかな糖質制限食を支持しております。「ゆるやかな糖質制限食」は、糖質摂取量を一日60〜120gとする食事です。ごはん50g(お茶碗半分程度)または食パン8枚切り1枚で糖質約20gを目安として主食の量を調整します。副食(おかず)は何を食べても構いません。ただし、塩分はできるだけ控えましょう。塩分が多いとどうしてもご飯や麺などを食べたくなりますし、血圧に対する悪影響も無視できません。

食品の種類 食品量 糖質量
白飯 150g(茶碗1杯) 55.2g
全粥 250g(茶碗1杯) 39.0g
食パン6枚切り 1枚(60g) 26.6g
ロールパン 1個(30g) 14.0g
ラーメン(生麺) 120g(1玉) 64.3g
うどん(ゆで麺) 250g(1玉) 52.0g
そば(ゆで麺) 200g(1玉) 48.0g
パスタ(乾麺) 100g 69.5g

食事療法の選択にあたり注意すべきこと

1. 食事療法は、患者さんのこれからの習慣となるものです。

Q7 に記したように、糖尿病は残念ながらまだ治すことができません。したがって、食事療法も一時的に頑張ればよいのではなく、「習慣」にして生涯続ける必要があります。

2. 生涯続けられる食習慣にするためにも、ご自分に合った食事法を選ぶもしくは見つけましょう。

私たちが最もお勧めするのは「ゆるやかな糖質制限食」ですが、患者さんにとって「カロリー制限食」があうのであれば、そしてそれで血糖コントロールが上手くいくのであれば、それがその患者さんにとって選択してよい食事療法であると考えます。私たちは、患者さんにとって最善の食事療法ができるようお手伝いをします。

3. 食事は生活全てにかかわるものであり、患者さんの嗜好や生活状況も年齢や環境とともに変化していきます。

現時点で選択した食事内容が変わらずに一生続くことはありません。また、年間においても季節や行事によっても変わります。お正月や旅行などでは、当然いろいろ食べたくなるものです。血糖やHbA1cをチェックすることで、定期的に食生活を見直してご自分の嗜好と生活に合うように調整して行くことが重要です。

4. 食事療法は、どの様な方法をとったとしてもこれまで自由に飲食をしてきた状況から「制限」がかかります。

「制限」は、「食欲に抑制をかける=我慢する」ことですので、患者さんにも多かれ少なかれ「努力」が必要となります。その努力を客観的に評価し最適化していくために血糖とHbA1cの定期的なモニタリングがとても役に立ちます。検査の値にしたがって食生活を定期的に見直して食べる量や種類を調整し、糖尿病の良好なコントロール状態とご自分の生活(食と運動)が満足できる妥当なポイントを見つけるのです。私たちは、その努力を継続できるようサポートします。共に頑張っていきましょう。

当クリニックで「ゆるやかな糖質制限」を勧める理由

現在の日本の診療現場において糖尿病の食事療法には、大きく分けて「カロリー制限食」と「糖質制限食」の2種類があります。その他にも「低脂肪食」、「地中海食」、米国心臓協会がする「DASH食」などがガイドラインには記載されていますが、日本の日常生活の中で比較的多くの人が取り入れられる現実的な選択枝は前述の2つになると思われます。
当クリニックが「カロリー制限食」よりも「緩やかな糖質制限食」を勧める理由は、主に以下になります。

  • 1)血糖改善がすぐに得られ、患者さんも効果を実感しやすいこと。これは治療に対するモチベーションアップに繋がります。
  • 2)実行が比較的容易です。
    • 2-1)糖質制限は「ゆるやか」ですので、先ずは細かいことにこだわらずに主食(お米、パン、麵)を減らすことから始められます。当クリニックでは、「ゆるやか」には、糖質の量をある程度(60〜120g/日)食べられることに加えて、糖質量を厳密に計測したり副食(おかず)などに含まれている糖質などにあまり神経質になる必要はないという意味も含めて指導しています。
    • 2-2)制限するのは糖質のみですので、糖質を減らした分を野菜やタンパク質(お肉やお魚、豆腐など)で補うことで空腹に耐える必要がありません。

間食(おやつ)に関して

ゆるやかな糖質制限にしたがい、一日糖質10gまでであれば楽しんでいただいて結構です。低糖質おやつとしてはナッツ類(アーモンドやクルミ)や高カカオ(70%以上)チョコレート(カカオ75% 20gで糖質約10g)、チーズなどがお勧めです。

フルーツも、糖質制限内(ミカン1個やリンゴ半個程度で糖質約10g)であれば良い間食(デザート)になります。フルーツは、朝食などの食事に取り入れる場合には、糖質量として20g程度まで食べることも可能です。ただし、この場合にはパンなどの炭水化物を全て抜くことが条件です。フルーツは主食ではないからと主食(パンやお米)も食べてしまうと、糖質量としては制限を超えてしまう可能性があることに注意しましょう。

最も気をつけるべきものは、甘い清涼飲料水です。これらは極力避けましょう。コカ・コーラは、100mlあたり約11gの糖質を含みます。現在の標準的な一人分(ペットボトル1本 500ml)で糖質約55g、角砂糖にして約14個分です。缶コーヒー(ペットボトル含む)も1本(185g-500ml)あたり約12-35gの糖質(角砂糖約3-9個)を含んでいます。「微糖」コーヒーでも8gです。

その他のスナックやクッキーなどは極力ひかえましょう。甘くない「おせんべい類」もお米から出来ているので高糖質食でひかえるべきおやつです。最近はコンビニなどでも低糖質デザートの種類が豊富になっており、糖質量を確認しながら上手に利用しましょう。

アルコールに関して

蒸留酒(焼酎、ウィスキー、ブランデー、ジン、ウォッカなど)や辛口の(糖質を加えていない)ワインなどは問題ありません。日本酒(1合で糖質8g)は注意が必要です。ビールは従来350mlあたり糖質を11g含むとされていましたが、利用可能炭水化物は微量(日本食品標準成分表2015年版:文部科学省より)でありそれほど気にしなくても良いでしょう。蒸留酒やビールも糖質をほとんど含まないとはいえ、アルコールとしての注意は必要です。アルコール過剰摂取は、血圧を上昇させ、肝障害をきたします。また、アルコールは食欲を増進させますので、食べ過ぎやいわゆる「シメ」に欲しくなるラーメン、お茶漬けやおにぎりなどは要注意です。

参考書籍

糖質制限食に関してより詳しく知りたい方には下記書籍をおすすめします。一般の方向けに分かりやすくかつ医学的な根拠に基づいて書かれています。

Q15. 運動に関して教えてください。
A15.

運動により血糖コントロールの改善は期待できますが、食事療法の方がより重要です。
運動だけで血糖コントロールが改善され合併症が予防できたとする科学的妥当性の高い研究はまだありません。しかし、運動の効果は単にカロリー消費のみにあるのではなく、食事療法と併用することで治療に対するモチベーションの向上と維持にも有用です。また、糖尿病に対してのみでなく、心肺機能や筋力の向上と維持をはかり日々の生活の質を改善させ健康寿命の延長にも大変有用です。

有酸素運動と筋力トレーニングのいずれでも血糖コントロールの改善は期待できますが、どちらが効果的かの結論は出ていません。現時点では、ご自分にとって行いやすい運動を選択することが良いでしょう。

運動の目安

有酸素運動は、特に道具や場所を必要とせずにすぐに始められる利点があります。
一日30分以上(細かく分けてもかまいません)または8,000歩/日以上で週5日以上を目安にウォーキングを行うと効果的です。もちろんジョギングや水泳などこれ以上の強度の運動を行うことは(無理のない範囲で)さらに効果的ですし、これ以下であっても毎日歩くことを心がけることで何もしないよりははるかに有用です。

筋力トレーニングに関しては、自己流で無理をすると筋肉や関節を痛めることもありますのでいきなり開始するのではなく、可能であればフィットネスクラブでトレーナーから指導を受けてから徐々に増やしていくことが理想的です。ジムに通うのは無理という中高年の方であれば家庭で無理なくできる石井直方先生(東京大学大学院教授)が勧める「スロトレ」などを参考にしても良いでしょう。

参考書籍

中高年のスロトレ【決定版】(日東書院本社) 石井 直方(監修)

スロトレ+(プラス): 1日5分、週2回の簡単エクササイズ(NHK趣味どきっ!)(NHK出版)比嘉 一雄、石井 直方、石川 三知(著)

Q16. 2型糖尿病の糖尿病のお薬にはどのようなものがありますか?
A16.

当クリニックでは、各種ガイドラインの推奨に基づき下記処方を基本としております。
考え方の基本は、血糖コントロールにより合併症予防や生命予後の改善が得られることが科学的妥当性の高い研究で示され、その結果から各種ガイドラインで推奨されている薬剤とその選択順序です。
特に近年、SGLT2阻害薬とGLP-1受容体作動薬は、慢性腎臓病(CKD)、動脈硬化、心不全のリスクを有する患者さんに対して、疾患の進行を遅らせ、将来の心血管イベント(脳卒中や狭心症・心筋梗塞など)のリスクを軽減する事を示す大規模研究が相次いで発表され、米国糖尿病学会(ADA)のガイドライン2022でも第1選択薬として推奨されるようになりました。
原則として下記選択順に処方(変更もしくは追加)しますが、腎機能や心機能、心疾患や脳梗塞の既往、副作用、薬剤利用の簡便さ(経口 vs 注射)、高齢者や低血糖のリスクなどその他の要因も考慮して患者さんひとりひとりに最適な薬剤を選択します。

  薬品名 主な作用
第1選択薬 ビグアナイド(BG)薬(経口薬) インスリン抵抗性改善
SGLT-2阻害薬(経口薬) 血糖の尿への排泄促進
第2選択薬 GLP-1受容体作動薬(注射薬)
DPP-4阻害薬(経口薬)(GLP-1受容体作動薬が使用困難な場合)
インスリン分泌促進、グルカゴン分泌抑制
第3選択薬 インスリン(注射薬)
第4選択薬 スルホニルウレア(SU)薬(経口薬) インスリン分泌促進
Q17. 治療中の検査を教えて下さい。
A17.

治療開始後は下記検査で治療効果と薬剤副作用、合併症のチェックと予防管理などを定期的または必要に応じて適宜行います。当クリニックでは下記検査はほぼ全て院内で可能です。定期受診時に通常30〜60分ほどで結果が得られますので、リアルタイムに治療に反映できます。

血糖コントロールの指標

  • HbA1c(ヘモグロビン エーワンシー) Q10 および Q19 参照
  • 血糖(グルコース)

インスリン分泌能評価

  • 血中C-ペプチド

1型糖尿病に関する検査

  • 抗GAD抗体(こちらは外注検査になりますので、結果は3〜7日後になります)

甲状腺機能の確認(二次性糖尿病の除外)

  • TSH/FT4/FT3

合併症(糖尿病性腎症ほか)・併発症の検査

尿検査

  • 尿蛋白
  • 尿中微量アルブミン(尿中アルブミンクレアチニン比:ACR)
  • 尿中ケトン体
  • 尿潜血

薬剤副作用などのチエック

血液検査

  • 〈腎機能〉尿素窒素(BUN)、クレアチニン(Cr)、電解質(Na/K/Cl)
    eGFR(慢性腎臓病の指標)とクレアチニン クリアランス(CCr)も同時に算出されます。
  • 〈肝機能〉GOT(AST)、GPT(ALT)、γ-GTP

動脈硬化リスクの包括的管理

  • 血圧測定 → 高血圧症管理
  • 脂質プロファイル:LDLコレステロール、HDLコレステロール、トリグリセライド(中性脂肪) → 脂質異常症管理
  • 禁煙指導 → 禁煙外来

動脈硬化性心血管疾患のチェックと心機能評価

  • 心電図、ABI、胸部レントゲン、心エコーなど

糖尿病の原因として膵臓癌が疑われる場合

  • 腹部エコーまたは腹部造影CT(これらも総合病院への検査依頼となります)
Q18. 強化インスリン療法とはどの様な治療法ですか?
A18.

健常人では食後の血糖上昇時に分泌されるインスリン(追加分泌)と、食事に関わらず24時間分泌されるインスリン(基礎分泌)の2種類が血糖制御に関わります。インスリン依存状態の1型糖尿病では両者が消失しており、外部からインスリンを補う必要があります。健常人にみられる生理的な血中インスリン変動パターンと同じ様なインスリンの投与を行います。皮下注射の場合、食後血糖上昇を抑えるために追加分泌として食直前または食直後にインスリンを注射、基礎分泌分は空腹時血糖などを見ながら1日1回ある程度決まった時間に注射を行います。注射タイミングや回数、投与量は医師と相談しながら調整を行います。

Q19. 治療中の血糖管理目標に関して教えてください。
A19.

糖尿病の治療は、主にHbA1cを指標として管理を行います。

管理目標

日本糖尿病学会による一般成人および高齢者血糖コントロール目標に準じ、下記表を基本として患者さん本人及びご家族と相談しながら個々に判断します。

血糖正常化
を目指す
合併症
の予防
強化治療が
困難な場合
HbA1c
(%)
6.0未満 7.0未満 8.0未満

1. 合併症の予防

まず目指すのは合併症の予防(HbA1c 7.0%未満)です。最低限これが達成できるよう生活習慣の改善と薬剤の調製を行います。

2. 強化治療が困難または高齢糖尿病患者

強化治療が困難と予想される場合や高齢糖尿病患者は下記状況の程度を考慮しながら個々に判断します。高齢者の場合、認知機能や日常生活動作(ADL)を考慮し特に低血糖に対する注意と配慮が必要となります。

考慮すべき事柄

薬剤の副作用、認知機能の低下、家族や社会(訪問看護師や訪問薬剤師など)のサポート状況など

日常性活動動作(ADL)の低下

基本的日常生活動作
(BADL)
食事・排泄・移動・着衣・入浴など
手段的日常生活動作
(IADL)
掃除・洗濯・掃除・買い物などの家事、交通機関の利用、服薬管理、金銭管理など

高齢糖尿病患者の血糖管理目標

  • 基本的に7.0%未満が目標です。
  • 中等度以上の認知症と基本的ADL低下を認める場合や重症低血糖を起こす危険性の高い薬剤(インスリンやSU薬)を使用している場合には8.0〜8.5%未満が目標となります。

3. 血糖の正常化を目指す

合併症予防目的であるHbA1c < 7.0を達成後、さらに血糖正常化を目指すときの目標値です。これを達成できると薬剤を減らしたり中止することも可能になります。

Q20. 糖尿病の内服やインスリンを使用しています。体調が悪いとき(シックデイ)の対処法について教えてください。
A20.

糖尿病の患者さんが病気にかかると、普段は血糖コントロールができていても血糖値が乱れやすくなり、急性合併症が起こりやすくなります。
そのような状態を「シックデイ(病気の日)」と呼び、特別注意が必要な日と位置づけられています。

病気や体調不良で身体的・精神的ストレスがかかると、身体を守るためにストレスホルモンが分泌され血糖値が上昇します。
反対に、食欲が低下して食事が食べられない状態で通常通りに内服や注射をする事で低血糖を起こす可能性もあります。
これらの理由からシックデイでは血糖値が大きく乱れやすくなり、適切に対処できないと糖尿病ケトアシドーシスや高血糖高浸透圧症候群などの重症合併症に繋がります。

血糖値や食事摂取量によって、普段飲んでいる内服薬や注射薬の調整が必要な場合もあります。また、体調が悪くてもご自身の判断で中断せず継続した方が良いお薬もあります。
お薬の調整が必要かは患者さんの状態によって異なりますので普段から主治医と確認しておく必要があります。

シックデイの時の家庭での対応

  1. かかりつけ医の事前の指示がない限り、インスリンや内服薬は継続してください。
  2. 各食前と眠前の1日4回の血糖自己測定を続けてください。
  3. 血糖自己測定が2回再検を行っても250mg/dlを超える場合、内服やインスリンの量の変更が必要な事があります。
  4. 脱水予防のため水分を十分に摂って下さい。
  5. おかゆ、麺類、スープ、ジュース、果物など食べやすく消化に良い食べ物でなるべく水分や糖類(エネルギー)を摂取しましょう。
  6. 安静にして過ごし、身体の回復を優先しましょう。

詳しくは「体調が悪いときの対処法について」を参照下さい。

Q21. 災害時の糖尿病の対処法について教えてください。
A21.

大規模な災害では避難所での生活が長期に及ぶ可能性があります。
避難時には生活状況が一変します。食事の内容や時間等に制約があったり薬が手に入りにくくなったりして、血糖コントロールが思うようにいかなくなります。

災害直後は医療機関が通常通り機能していない可能性が高く、重篤な状態でない限り自分でできることは自分で対応していく必要があります。
そのためにも日頃からご自身の内服薬や注射薬を把握し、災害時の対応を確認しておくことが大切です。

特に災害後三日間は「自分の身は自分で守る」という意識を持ち、非常用キットを準備しておきましょう。内服薬や注射薬も1週間〜1ヶ月分程度は予備を持ち災害時に備えましょう。

詳しくは日本糖尿病協会が提供している資料「災害時サポートマニュアル」を参照下さい。

Q22. 糖尿病と妊娠について教えてください。
A22.

妊娠中の糖代謝異常には、糖尿病が妊娠前から存在している“糖尿病合併妊娠”と、妊娠中に初めて発見される糖代謝異常があります。いわゆる妊娠糖尿病とは、妊娠中に初めて発症または発見された、糖尿病に至っていない糖代謝異常を指します。中には妊娠中に明らかな糖尿病が診断されることも有りますが、こちらは妊娠糖尿病とは呼びません。

妊娠糖尿病の診断基準は、非妊娠時の糖尿病診断基準とは異なります。すなわち、糖尿病に至らない軽い糖代謝異常でも、妊娠中は胎児の発育や母体へのリスクが高くなることを意味します。診断基準、治療の目標値も必然的に厳格になりますので、慎重なフォローアップが必要になります。

既に糖尿病で通院中の患者さんは、妊娠前の治療・管理について主治医の先生とよくご相談ください。また妊娠後に妊娠糖尿病と診断された際は、かかりつけの産婦人科と相談し早めに糖尿病専門医を受診してください。

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