脂質異常症
DYSLIPIDEMIA
概要
脂質異常症は、動脈硬化を促進し、虚血性心疾患や脳卒中を起こす原因となる病気です。高血圧や糖尿病と同様に、自覚症状がほとんどないため、患者さん自身では気づきにくく、健康診断などの血液検査ではじめて分かることが少なくありません。したがって、脂質異常症は生活習慣病として、特定健診などで定期的に確認することが大切です。
脂質異常症の中でも、特に悪玉コレステロールとして知られるLDLコレステロールは、重大な合併症(心臓血管病)の予防において非常に重要です。欧米では、スタチンによるLDLコレステロール低下療法が、一次予防・二次予防のいずれにおいても心血管イベントを減少させることが多くの大規模研究で示されており、現在も脂質低下療法の基盤となっています。加えて近年、エゼチミブ、PCSK9阻害薬(モノクローナル抗体)、ベムぺド酸といった非スタチン系薬剤でも心血管イベント抑制効果が臨床試験で証明され、スタチンへの追加薬として重要な選択肢となっています。
当クリニックでも、スタチンの医学的に示されている効果と副作用の可能性を考慮したうえで、その服薬を積極的に推奨します。
しかし、これらの医学情報を理解されたうえで服用されないことを選ばれる場合も、患者さん・ご家族の選択として尊重し、代替のお薬や治療法などをともに検討したいと考えています。
診療方針
当クリニックでは基本的に米国心臓病学会/米国心臓協会(ACC/AHA)、日本動脈硬化学会のガイドライン最新版、およびオンライン医学テキスト「Up to Date」に準拠します。
ガイドライン最新版(2026年3月時点)
- 2026 ACC/AHA/AACVPR/ABC/ACPM/ADA/AGS/APhA/ASPC/NLA/PCNA Guideline on the Management of Dyslipidemia: A Report of the American College of Cardiology/American Heart Association Joint Committee on Clinical Practice Guidelines
- 日本動脈硬化学会 動脈硬化性疾患予防ガイドライン 2022年版
初診時の主な診療内容
1. 身長・体重測定、院内血圧測定(2回測って平均値を取ります)
| 問診と診察 | 現在および過去の健康問題に関してお話を伺い、心臓の聴診などの診察を行います。 |
|---|---|
| 検査 | 血液生化学検査(脂質を中心に)、胸部レントゲン、心電図、ABI(喫煙者や65歳以上)、心エコーなどを必要に応じて行います。 |
2. 診察と検査結果に基づきリスク評価を行います。
主なリスクは下記です。
- 動脈硬化性疾患(狭心症や心筋梗塞、脳卒中、末梢動脈疾患)を起こしたことがある方
- 糖尿病や慢性腎臓病(CKD)がある方
- 喫煙者、高血圧の方
- 家族歴、脂質異常の程度、その他の合併症がある方
Q&A「治療方針はどのように決めるのですか?(リスク評価:日本動脈硬化学会 ガイドライン2022より)」
3. 治療方法:リスク評価に基づき、基本治療方針を決定します。
基本は生活習慣(食事と運動)の改善です。
お薬(脂質低下薬)
- 高LDL-C血症に対する治療が基本です。
- 当クリニックで選択する薬剤は原則下記5種類です。
特に1.はその効果が医学的に証明されている最重要薬です。
- スタチン系(アトルバスタチン/ロスバスタチンなど)
- エゼチミブ
- PCSK9阻害薬
a. PCSK9モノクローナル抗体(エボロクマブ/アリロクマブ)
b. インクリシラン(siRNA製剤) - ベムペド酸
- EPA製剤(イコサペント酸エチル)※高TG血症合併時
状況は患者さん個々に異なりますので、選択理由は診察時に個別に説明いたします。
再診に関して
お薬による治療開始時には1か月ごと、状態が安定してからは2~3か月ごとに定期通院していただきます。
診察と血液生化学検査に基づき、治療の効果、服薬状況の判断、お薬の副作用などを確認します。
脂質異常血症 Q&A
血液中の脂質の種類と脂質異常症の診断基準
一般的な血液検査で測定できる脂質とその診断基準は以下の4種類です。
1. LDLコレステロール(低密度リポタンパク質コレステロール):悪玉コレステロール
| 境界域高LDLコレステロール | 120~139mg/dL |
|---|---|
| 高LDLコレステロール血症 | 140mg/dL以上 |
2. HDL-C(高密度リポタンパク質コレステロール):善玉コレステロール
| 低HDLコレステロール血症 | 40mg/dL未満 |
|---|
3. TG(トリグリセリド、中性脂肪)
食事の影響を受けやすいため、中性脂肪の評価は空腹時採血で行うことが望ましいとされています。当クリニックでも、特に初診時には空腹時採血をお願いしております。
※食後採血でも評価は可能ですが、値の解釈に注意が必要です。
| 正常 | 150 mg/dL未満(空腹時)、175mg/dL未満(食後随時) |
|---|---|
| 持続性高TG血症 | 150〜499 mg/dL |
| 重症高TG血症 | 500〜999 mg/dL(膵炎リスク上昇) |
| 超重症高TG血症 | ≧1000 mg/dL(膵炎リスクが特に高い) |
「持続性高TG血症」は、二次的原因の是正、4〜12週間以上の生活習慣改善、および必要に応じた薬物治療後もTG高値が持続する状態を指します。
TG≧500mg/dLでは急性膵炎のリスクが上昇し、TG≧1000mg/dLでは特に高リスクとなるため、TG低下を優先します。
4. TC(総コレステロール)
| 正常 | 200 mg/dL未満 |
|---|---|
| 境界 | 200〜239 mg/dL |
| 高値 | ≧240 mg/dL |
基本編
- Q. 脂質異常症とは、どのような病気ですか?
- A.
脂質異常症とは、血液中のコレステロールや中性脂肪(トリグリセリド)が異常値を示している状態です。脂質異常症は、動脈硬化を起こす主な原因であり、脳卒中や心筋梗塞(心臓発作)など生命に関わる重大な病気を引き起こします。
しかし脂質異常症自体には、通常症状はありません。 - Q. 脂質異常症と、高コレステロール血症は違う病気ですか?
- A. 脂質異常症の中に高コレステロール血症が含まれます。脂質異常症には、特殊な疾患を除いて一般的に以下の3つの状態があります。
- 高LDLコレステロール血症
- 低HDLコレステロール血症
- 高中性脂肪血症(高トリグリセリド血症)
したがって、高コレステロール血症は実質的には高LDLコレステロール血症を意味します。
- Q. 健診などの項目でさまざまな種類の脂質があります。最も重要な脂質はどれですか?
- A. LDLコレステロールです。
健診や一般的な病院での検査で測定する脂質は、下記の4種類です。
これら4種類の中で、動脈硬化予防という観点から最も重要なのがLDLコレステロールです。これは悪玉コレステロールと呼ばれています。- 総コレステロール
- HDLコレステロール
- 中性脂肪
- LDLコレステロール(当院では主に直接法で測定します)
- Q. なぜLDLコレステロールが重要ですか?
- A.
LDLコレステロール値が高いほど、心臓・血管の病気のリスク(危険度)が上がることが多くの研究で示されています。
そして最も重要な点は、LDLコレステロールを下げる治療によって、心筋梗塞や脳梗塞などの心血管イベントのリスクを減らせることが明確に証明されていることです。
このため、脂質異常症の診療では、まずLDLコレステロール管理が治療の中心になります。 - Q. 高LDLコレステロール血症は治せますか?
- A. 現在の医学では、残念ながら完全に治すことはできません。LDLコレステロールが異常高値となる背景には、体質、遺伝、食事、運動不足、加齢など、さまざまな要因が関係しているからです。
継続的に生活習慣の改善やお薬を用いてLDLコレステロール値をできるだけ下げ、将来の心筋梗塞や脳梗塞を予防することが重要です。治すことはできなくても、コントロールすることで健康寿命をのばすことができます。 - Q. 中性脂肪(トリグリセリド)が高いとどうなるのですか?
- A.
中性脂肪が高い状態も、動脈硬化性疾患のリスク上昇と関連しています。また、非常に高値になると急性膵炎のリスクが高くなることが知られています。
特にTGが500mg/dL以上では膵炎リスクを意識し、1000mg/dL以上ではその予防を優先して治療します。 - Q. HDLコレステロールとはどのようなコレステロールですか?
- A. このコレステロールの値が低いと(低HDLコレステロール血症:診断基準参照)、心臓・血管病のリスクが上昇することが知られています。しかしながら、HDLコレステロールを増やすこと自体で心血管リスクを低下させることが証明された有効なお薬は、現在のところ確立していません。
- Q. リポプロテイン(a)〔Lp(a)〕について教えてください。
- A.
Lp(a)は、LDL粒子にアポリポプロテイン(a)が結合した特殊なリポ蛋白で、動脈硬化性心血管疾患のリスクを独立して高めることが知られています。値は主に遺伝的に決まり、生活習慣やスタチンでは大きく低下しません。
2026年ACC/AHAガイドラインでは、すべての成人に対して生涯に少なくとも1回のLp(a)測定が推奨されています。
当クリニックの方針
当クリニックでは現時点では、全員に一律に測定するのではなく、家族歴、若年発症の心筋梗塞や脳梗塞、LDL-Cが十分に管理されているにもかかわらず動脈硬化が進行する場合など、臨床的に必要性が高いと考えられる方に対して選択的に測定しています。
Lp(a)高値が判明した場合には、LDL-Cのより厳格な管理や、その他の危険因子(高血圧・糖尿病・喫煙など)の是正をより重視して対応します。 - Q. アポリポプロテインB(ApoB)とは何ですか?
- A.
ApoBは、LDL・VLDL・レムナントなど、動脈硬化を促進するリポ蛋白粒子の「総数」を反映する指標です。LDL-C値だけでは捉えにくい残余リスクの評価に役立つことがあります。
当クリニックの方針
ApoBは、ASCVD既往、糖尿病、高TG血症がある方や、LDL-Cが目標に達していても残余リスクが疑われる場合に有用なことがあります。
当クリニックでは現時点では全例のルーチン測定とはしていませんが、治療強化の判断が難しい症例では選択的に測定を検討します。 - Q. non-HDLコレステロール(non-HDL-C)とは何ですか?
- A.
non-HDL-Cは総コレステロールからHDLコレステロールを引いた値(計算式:non-HDL-C = TC − HDL-C)で、LDL以外のアテローム性リポ蛋白(VLDL、レムナントなど)も含めた動脈硬化リスクの包括的な指標です。
当クリニックの方針
当クリニックではLDL-Cを主指標として管理しますが、non-HDL-Cも通常の脂質検査から追加採血なしで算出できる有用な指標です。
特に、高TG血症、糖尿病、残余リスク評価が問題となる場合には、non-HDL-Cも参考にして治療方針を判断します。 - Q. 総コレステロール(TC)に関して
- A.
総コレステロールは、血中のすべてのコレステロールの総和値です。これにはLDL(悪玉)もHDL(善玉)も含まれています。高コレステロール血症の治療方針を決定するのは、LDL値やHDL値です。
したがって、総コレステロールが高値の場合には、それがLDLまたはHDLによるものかを調べる必要があります。
検査
- Q. 必要な検査の目的と種類を教えてください。
- A.
血液・尿検査 腎臓機能 尿素窒素(BUN)、クレアチニン(Cr)、尿蛋白(アルブミン)、尿潜血など 肝機能 肝酵素(AST、ALT) 体内のミネラル分 ナトリウム(Na)やカリウム(K) 貧血の有無 ヘモグロビン(Hb) 脂質異常症の有無 総コレステロール(TC)、高密度リポタンパク質コレステロール(HDL-C)、低密度リポタンパク質コレステロール(LDL-C:直接法)、中性脂肪(TG) 糖尿病の有無 血糖、ヘモグロビンA1c(HbA1c) 甲状腺機能低下症の有無 甲状腺刺激ホルモン(TSH)、甲状腺ホルモン(FT4) 心電図 心筋梗塞の既往、不整脈、心肥大などの有無を確認します。 胸部レントゲン 心臓の大きさや肺の病気の有無などを確認します。 心エコー 心臓のポンプ機能や弁膜症や心肥大などの構造異常を調べます。 ABI 下肢動脈に狭窄が起きていないか調べます。 - Q. 検査は「朝食抜き」が良いですか?
- A. はい。HDL-Cや総コレステロールは食事の影響を受けませんが、中性脂肪は影響を受けます。そのため、脂質異常症の評価をより正確に行うためには、
朝食を抜いた空腹時採血 が望ましいです。
特に初診時には、中性脂肪が高いかどうかを含めて正確に評価する必要があるため、当クリニックでは可能な限り空腹での来院をお願いしています。
治療
- Q. 一次予防・二次予防とは何ですか?
- A. 一次予防とは、高LDLコレステロール血症はあるが心臓血管病をまだ起こしていない方に対する予防です。
二次予防とは、既に心臓血管病を起こしている方の再発予防のことです。
治療の目的が一次予防なのか二次予防なのかによって、お薬を開始する基準や目標値も異なります。二次予防の対象となる方は、しっかりと治療する必要があります。一方、一次予防の対象となる方は、リスクの有無によって治療方針が異なります。 - Q. 二次予防における「Very High Risk(超高リスク)」とは何ですか?
- A. 2026年ACC/AHAガイドラインでは、すでに動脈硬化性心血管疾患(ASCVD)を起こしている患者さんをさらにリスク層別化し、「Very High Risk(超高リスク)」に該当する方にはより積極的な治療目標(LDL-C 55mg/dL未満)が設定されています。
Very High Riskの定義:以下のいずれかに該当
1)複数の重大ASCVDイベントの既往(2つ以上)
- 過去12ヶ月以内の急性冠症候群(ACS)
- 心筋梗塞の既往
- 虚血性脳卒中の既往
- 症候性末梢動脈疾患
2)1つの重大ASCVDイベント + 複数の高リスク条件
高リスク条件:
- 65歳以上
- 冠動脈バイパス術/経皮的冠動脈インターベンションの既往
- 現在の喫煙
- 糖尿病
- 心不全の既往
- 高血圧
- スタチン+エゼチミブ最大耐用量でもLDL-C ≧100mg/dL
- Q. 日頃の食事で気をつけることを教えてください。
- A.
脂質異常症では、特定の食品を極端に禁止するより、食事全体の質を整えることが大切です。
基本は、
1. 野菜、豆類、きのこ、海藻、果物、全粒穀物、ナッツを増やす
2. 魚や大豆製品を取り入れる
3. 肉の脂身、バター、生クリーム、加工肉など飽和脂肪酸の多い食品を控える
4. 揚げ物、スナック菓子、菓子パンなど超加工食品やトランス脂肪酸を減らす
5. 砂糖の多い飲料や精製炭水化物を減らす
6. 高TG血症の方では飲酒を控える
ことです。卵や魚介類などコレステロールを含む食品だけを一律に厳しく制限するよりも、飽和脂肪酸や食事全体のバランスを整えることのほうが重要です。
ただし、個々の体質や合併症(糖尿病、肥満、高TG血症など)によって勧める内容は異なるため、必要に応じて個別にご説明します。魚や大豆製品 魚、大豆、豆腐、納豆などは、たんぱく源として取り入れやすく、脂質異常症の食事療法でも勧めやすい食品です。 ナッツ クルミ、アーモンド、ピスタチオ、カシューナッツなどのナッツ類は、不飽和脂肪酸や食物繊維を含みます。食べすぎには注意が必要ですが、適量であれば勧められる食品です。 食物繊維が豊富な食品 野菜、きのこ、海藻、豆類、オート麦、玄米、雑穀米など、食物繊維を多く含む食品は、脂質管理や体重管理の両面で有用です。 控えたい食品 肉の脂身、加工肉、揚げ物、スナック菓子、菓子パン、バター、生クリームなど、飽和脂肪酸やトランス脂肪酸の多い食品は控えめにしましょう。 いずれにしても、すべての病気や健康状態に対して万能な単一の食品はありません。
極端な偏りを避け、野菜を多く、たんぱく質は魚や大豆製品を中心にし、動物性脂肪や精製炭水化物を控えた食事を心がけましょう。 - Q. お薬に関して教えてください
- A.
当クリニックで選択する薬剤は原則下記5種類です。
特に1.スタチン系はその効果(心臓血管病の予防と死亡率の減少)が最も豊富なエビデンスで裏付けられている、高コレステロール治療の基盤薬です。- スタチン (アトルバスタチン/ロスバスタチンなど)
- エゼチミブ
- PCSK9阻害薬
a. PCSK9モノクローナル抗体(エボロクマブ/アリロクマブ)
b. インクリシラン(siRNA製剤) - ベムペド酸
- EPA製剤(イコサペント酸エチル)※高TG血症合併時
当クリニックではスタチンを第一選択薬としています。スタチンは心臓血管病の予防と死亡率を減少させることが多数の研究により示されています。
エゼチミブは、コレステロール低下作用を持つ薬剤で、心臓血管病の予防効果が臨床試験(IMPROVE-IT試験)で示されています。スタチンが副作用で使用できなかったり、スタチンでは十分なコレステロールの低下が得られない場合に処方します。
2026年ACC/AHAガイドラインでは、スタチンに追加する治療においてエゼチミブの先行投与は必須とされなくなり、必要なLDL-C低下幅と患者さんの希望に応じて、エゼチミブ・PCSK9阻害薬・ベムペド酸のいずれかを選択できるようになりました。PCSK9モノクローナル抗体(エボロクマブ/アリロクマブ)は、LDLコレステロール低下効果が非常に強力な薬剤です。2週間ごと、または4週間ごとの皮下注射で投与し、患者さんの通院状況や治療方針に応じて選択します。大規模臨床試験(FOURIER試験・ODYSSEY OUTCOMES試験)で心血管イベントの減少が証明されており、長期安全性データも確認されています。家族性高コレステロール血症、もしくは二次予防でスタチンを最大耐用量使用しても十分な効果が得られない場合に処方します。
インクリシランは、PCSK9の産生を遺伝子レベル(siRNA)で抑制する新しい薬剤です。半年に1回の皮下注射でLDL-Cを約50%低下させます。ただし、心血管アウトカム試験は現在進行中であり、エボロクマブ/アリロクマブが使用できない場合の代替薬としての位置づけです。薬剤費が高額であるため、費用対効果を含めた患者さんとの十分な相談のもとで使用を検討します。インクリシランは新しい治療薬ですが、適応や費用、臨床エビデンスの状況を踏まえ、当クリニックでは現時点では標準的な治療選択肢としては採用していません。
ベムペド酸は、ACL(ATPクエン酸リアーゼ)阻害薬という新しい作用機序の内服薬で、LDL-Cを低下させます。CLEAR OUTCOMES試験においてスタチン不耐症の患者で心血管イベントの減少が証明されました。スタチンの副作用が問題となる場合や、最大耐用量のスタチンでもLDL-C目標に到達しない場合に追加を検討します。
なお、現時点(2026年3月)では処方日数制限があるため、当クリニックでは長期処方が可能となる段階で導入を検討しています。
- Q. 治療方針はどのように決めるのですか?(リスク評価:日本動脈硬化学会 ガイドライン2022より)
- A.
一次予防と二次予防によって異なります。
二次予防に対しては、すでに心臓血管病を起こしているため非常に高リスクであり、LDLの値にかかわらず生活習慣改善とともに薬剤治療を開始します。一次予防に関しては、まずリスクを評価します。
当クリニックでは、日本動脈硬化学会ガイドライン2022年版に基づき、久山町研究スコアによる絶対リスク評価を基本としています。
リスクのスコアリングには、日本動脈硬化学会が提供しているアプリなどを用いて算出します。リスクの程度:予測される今後10年間の動脈硬化性疾患(狭心症・心筋梗塞、脳梗塞など)の発症リスクから低~高リスクに分類します。
低リスク 2%未満
中リスク 2~10%未満
高リスク 10%以上高リスク LDL-C ≧180mg/dL、糖尿病、慢性腎臓病(CKD)、末梢動脈疾患(PAD)のいずれかがある方。 リスク分類 上記高リスク因子が無い場合は、性別、年齢、危険因子を有する数によって分類します。 ※米国ACC/AHAガイドラインでは、2026年版よりリスク評価ツールが従来のPCE(Pooled Cohort Equations)からPREVENT™(Predicting Risk of cardiovascular disease EVENTs)計算式に変更されました。
当クリニックでは、PREVENT™は現時点で日本人集団での妥当性が十分に確立していないため、日常診療における標準のリスク評価法としては使用していません。
日本と米国ではASCVDの疾患構成やベースラインリスクが異なるため、米国由来の計算式をそのまま適用すると、リスクの過大評価または過小評価が生じる可能性があります。
当クリニックでは、日本人データに基づく久山町研究スコアを中心に、必要に応じて米国ガイドラインの考え方も参考にしながら治療方針を決定しています。 - Q. 冠動脈カルシウムスコア(CACスコア)とは何ですか?
- A.
CACスコアは、心臓CTにより冠動脈壁のカルシウム沈着量を数値化したもので、動脈硬化の存在を直接評価できる検査です。一次予防で、お薬を始めるべきか迷う場合に参考になります。
- CACスコア 0:薬物治療を急がず、生活習慣改善を優先できる場合があります
- CACスコア ≧100 または 同年齢性別の75パーセンタイル以上:LDL低下療法を積極的に考えます
- CACスコア ≧1000:かなり高リスクと考え、より厳格な管理を行います
※当クリニックではCT装置はございませんが、必要な場合は近隣の連携施設で検査を受けていただけます。CACスコアの結果に基づき、最適な治療方針をご相談いたします。
- Q. お薬はいつ飲み始めますか?
- A.
二次予防目的 生活習慣改善とともに直ちに(LDL-Cの値にかかわらず)薬剤を開始します 一次予防目的 高リスクの方 生活習慣改善とともに直ちに薬剤を開始します。 中リスクの方 生活習慣の改善を試みてもLDL-C 140mg/dL未満を達成できない場合に薬剤を開始します。 低リスクの方 基本的に生活習慣の改善のみで経過を見ます。 - Q. LDLコレステロールの治療目標
- A. 当クリニックでは、日本動脈硬化学会ガイドライン2022年版の久山町研究スコアによるリスク評価を基本とし、ACC/AHAガイドラインも参考にしたうえで以下を「目安」としています。
【当クリニックの現行目標値】
二次予防目的 Very High Risk(超高リスク)※ 55mg/dL未満 Not Very High Risk 70mg/dL未満 一次予防目的 高リスクの方 100mg/dL未満 中リスクの方 120mg/dL未満 ※Very High Riskの定義はQ&A「二次予防におけるVery High Risk(超高リスク)とは何ですか?」を参照
【参考:2026年ACC/AHAガイドラインの目標値】
2026年ACC/AHAガイドラインでは、PREVENT™計算式によるリスク評価に基づき、一次予防においてもより積極的なLDL-C目標値が設定されています。
二次予防目的 Very High Risk 55mg/dL未満 non-HDL-C 85mg 85mg/dL未満 Not Very High Risk 70mg/dL未満 non-HDL-C 100mg/dL未満 一次予防目的 高リスク(10年リスク≧10%) 70mg/dL未満 non-HDL-C 100mg/dL未満 中リスク(10年リスク5〜<10%) 100mg/dL未満 non-HDL-C 130mg/dL未満 ボーダーライン(10年リスク3〜<5%) 個別判断 個別判断 当クリニックの一次予防目標値がACC/AHAの目標値と異なるのは、リスク評価ツールの違いによるものです。ACC/AHAの目標値は米国の集団データに基づくPREVENT™計算式と対になっており、日本人データに基づく久山町スコアにそのまま適用する根拠は十分ではありません。
なお、日本のガイドラインは過去の改訂においても欧米のエビデンスを踏まえて目標値を段階的に強化してきた経緯があり、今後の改訂で見直される可能性があります。その際には当クリニックの目標値も再検討します。
- Q. LDLコレステロールが下がりすぎていないか心配です。
- A.
現時点で、下がりすぎによる悪影響を医学的・科学的に証明した決定的な研究はありません。
LDL-C 40~50mg/dL程度であれば、通常は問題ないと考えられています。治療が有効に効いている証拠であり、薬の減量・中止の根拠にはなりません。特に二次予防の場合は、LDL-Cは低ければ低いほど良いと考えられており、可能な範囲で十分な脂質低下療法を行うことが推奨されます。
スタチンを最大耐用量服用いただいてもLDL-C <70mg/dL(Very High Riskの場合は<55mg/dL)を達成できない場合には、エゼチミブ、PCSK9阻害薬、インクリシラン、またはベムペド酸の併用も検討します。 - Q. スタチンの副作用である横紋筋融解が心配です。
- A. スタチンの副作用として横紋筋融解が生じることは稀です。
筋肉痛や脱力感、尿の色の変化などがある場合には、すぐにご相談ください。必要に応じて採血で筋障害の有無を確認します。 - Q. 高トリグリセライド(TG)血症(高中性脂肪血症)に対してどのような治療法がありますか?
- A.
高TG血症の治療では、生活習慣(食生活、運動、体重管理、飲酒制限)の改善が最も重要であり、糖尿病や甲状腺機能低下症などの二次的原因がある場合はその是正も必要です。
【TG 150〜499 mg/dLの場合】
- 二次的原因の是正と生活習慣の改善が基本
- ASCVDリスクに応じてスタチンの開始・最適化を優先
- ASCVD既往があり、スタチン最大耐用量でもLDL-C・non-HDL-C目標未達の場合は、LDL-C低下療法の強化を優先
- 上記に加え、TG 150〜499 mg/dLが持続し、一定の条件を満たす場合にはEPA製剤の追加を検討します
【TG 500〜999 mg/dL(重症)およびTG ≧1000 mg/dL(超重症)の場合】
膵炎予防のためTG低下が最優先です。生活習慣改善に加え、フィブラート系薬剤または処方オメガ3脂肪酸製剤の使用を検討します。
- フェノフィブラート
- ペマフィブラート
- EPA製剤
※フィブラート系薬剤はTG低下効果がありますが、スタチンに追加した場合のASCVDイベント抑制効果は必ずしも確立していません。したがって、TG<1000 mg/dLの場合、ASCVDリスク低減にはスタチンが治療の土台となります。
オメガ3脂肪酸製剤について
オメガ3脂肪酸製剤にはいくつかの種類がありますが、すべてが同じ効果を持つわけではありません。
2026年ACC/AHAガイドラインでは、EPAのみを含む製剤(イコサペント酸エチル)に限って、心筋梗塞や脳梗塞などの心血管イベントを減少させる効果が証明されているとして区別されています。
- EPA製剤(イコサペント酸エチル)*
大規模臨床試験(REDUCE-IT試験)において、心血管イベント抑制効果が示されています。
ただし適応は、動脈硬化性心血管疾患がある方、または糖尿病に加えて複数の危険因子を有する方で、スタチン治療中にもかかわらず中性脂肪(TG)150〜499mg/dLが持続し、LDLコレステロールが一定程度コントロールされている場合に限られます。 - EPA+DHA合剤(一般的な魚油製剤)
臨床試験(STRENGTH試験など)では、心血管イベント抑制効果は示されていません。
このため、心筋梗塞や脳梗塞の予防目的としては推奨されていません。
※同じ「オメガ3脂肪酸」でも、EPA単独製剤とEPA+DHA合剤は同等ではありません。
当クリニックでは、患者さんへの真の利益(単に数値を改善するだけでなく、心臓・血管病を予防すること)が医学的に証明された治療を優先し、病態や合併症に応じて治療方針を決定します。
