冠攣縮性狭心症

概説

冠攣縮性狭心症とは、冠動脈の壁を取り巻いている筋肉が発作性に過収縮をおこすことで冠動脈が収縮して(これを冠動脈攣縮といいます)狭窄をきたし、心筋への血流が減少して虚血を生じる狭心症です。
欧米人と比較して日本人に多いことが知られています。
一般的には比較的良好な経過を取りますが、心筋梗塞や突然死の原因となることもある狭心症であり、冠動脈攣縮を予防するために薬剤を服用する必要があります。

診療方針

当クリニックでは日本循環器学会、欧米循環器系ガイドライン最新版、およびオンライン医学テキスト「Up to Date」 に準拠します。

ガイドライン最新版(2021年7月時点)

  • 日本循環器学会 慢性冠動脈疾患診断ガイドライン(2018年改訂版)
  • 日本循環器学会 冠攣縮性狭心症の診断と治療に関するガイドライン(2013年改訂版)
  • 2014 ACC/AHA/AATS/PCNA/SCAI/STS Focused Update of the Guideline for the Diagnosis and Management of Patients With Stable Ischemic Heart Disease
  • 2019 ESC Guidelines for the diagnosis and management of chronic coronary syndromes

初診時の主な診療内容

1. 身長・体重測定、院内血圧測定(2回測って平均値を取ります)

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問診と診察現在および過去の健康問題や現在の症状に関して詳細なお話を伺い、心臓の聴診などの診察を行います。
検査心電図、ABI、胸部レントゲン、心エコー、ホルター心電図検査、血液生化学検査、尿検査などを行います

2. 診察と検査結果に基づき診断または状態の評価を行います。

診断に当たって重要なことは、動脈硬化性の狭心症との鑑別です。
動脈硬化の主な下記リスクに関して評価が必要です。

3. 治療方法:評価と診断に基づき治療方針を決定します。

基本:禁煙、節酒、ストレス管理は非常に大切です。

  • 狭心症は、胸痛発作の管理と心筋梗塞発症予防が重要です。薬剤を服用する必要があります。
  • 当クリニックで選択する薬剤は原則下記となります。
    下記の中からそれぞれの病状に応じて最適な薬剤を選択・組み合わせます。
    抗狭心症薬
    カルシウム拮抗薬、硝酸薬、ニコランジル

再診に関して

お薬による治療開始時には1ヶ月ごと、状態が安定してからは2-3ヶ月ごとの定期通院が必要です。

Q&A

Q1. 心臓の働きと冠動脈について教えて下さい。
A1. 心臓の基本的な役割は、全身に血液を循環させるポンプです。心臓は筋肉でできた袋状の臓器で、筋肉が収縮することで心臓から血液を送り出します。
心臓の部屋は心房と心室にわかれ、それぞれ左右にあり計4つの部屋(左心房・右心房、左心室・右心室)があります。心房は肺や全身からの血液が戻ってくる部屋で、心室は肺や全身に血液を送り出す部屋です。
各々の部屋が協調して収縮と拡張を繰り返す(ポンプする)ことで全身の血液を循環させています。左心室が、血液を全身に送り出すいわばメインポンプの役割を担っており、4つの部屋の中で最も重要な部屋です。
血液を全身に送り届ける(ポンプする)心臓のエネルギー源もやはり血液に含まれた酸素や栄養です。心臓を養うための血液は、心臓の表面を取り巻いている血管(冠動脈)によって供給されています。
冠動脈には、左冠動脈と右冠動脈があり、各々大動脈から出ています。左冠動脈は、大きく2本の枝に分かれており、それぞれ左前下行枝と左回旋枝の名前が付いています。
それぞれの冠動脈は、分布する心臓の部位(左前下行枝は左室の前面、左回旋枝は左室の側面、右冠動脈は左室の下面と右室)を栄養しています。
Q2. 冠攣縮性狭心症とはどのような病気ですか?
A2. 心臓を栄養する動脈(冠動脈)が発作性の攣縮(いわゆる血管の痙攣)によって高度な狭窄を生じることで起こされる心筋の一時的な虚血(血液供給が不足する)状態です。
血液の供給は減少しているが未だ残っているため心臓は壊死を起こしておらず、ポンプ機能の低下はないか、あったとしても軽度かつ一時的です。
冠動脈の痙攣は通常数分〜10分程度で自然にもしくはニトログリセリンなどの冠動脈改善しますが、稀に重症化すると30分以上続き心筋梗塞を起こすこともあります。
Q3. 原因を教えてください。
A3. 冠動脈攣縮の原因は下記が関与するとされており、特に1)が中心的な病因と考えられています。
  1. 血管平滑筋(動脈を収縮させる筋肉)の過敏性亢進
  2. 自律神経バランスの乱れ
  3. 血管内皮細胞の障害
Q4. 症状を教えてください。
A4. 最も重要かつ典型的な症状は「胸痛」です。胸痛に関する詳細は症状を参照ください。
痛み方(圧迫感や絞扼感など)は「動脈硬化性狭心症」と共通していますが、冠攣縮に特徴的(動脈硬化性と異なる点)とされる胸痛は以下です。
  1. 安静時に多い(日中運動で誘発されることは少ない)
  2. 夜間から早朝にかけて起きることが多い
  3. 過度な精神的ストレスや過換気で誘発される
Q5. 発作を起こす誘因や危険因子はありますか?
A5. はい、以下の状況で誘発されやすくなります。
  1. 不安感などの精神的ストレス
  2. 喫煙
  3. 常用飲酒習慣
Q6. 診断はどのように行いますか?
A6. 最も重要な診断方法は、問診(症状)と心電図です。
日本循環器学会のガイドラインでは以下の2点が満たされると「冠攣縮性狭心症 確定」になります。
  1. 経験を積んだ循環器専門医による問診によって「胸痛」が冠攣縮性狭心症によるものと判断する。
  2. 1. と同じ胸痛出現時に施行した心電図(12誘導心電図もしくは24時間ホルター心電図検査)で狭心症に特徴的な所見が明らかな場合。

胸痛が起きている時間は、一般的に数分〜15分程度長くても30分程度ですので、クリニック受診時には胸痛は改善していることがほとんどです。受診時に施行する12誘導心電図で異常を示すことは少ないため、24時間ホルター心電図(下記参照)は必須の検査です。

症状と心電図のみで冠攣縮と動脈硬化を完全に鑑別することは困難であり、より重篤な動脈硬化性を否定するために冠動脈造影CT(下記参照)が必要になります。

症状から狭心症が疑われるもしくは否定できない場合には、受診当日に施行した心電図が正常であることを確認し、下記に示す詳しい検査を行います。
全ての検査を行うわけではなく、下記の中からどの検査を選択・組み合わせるかは、狭心症の可能性の程度や検査の侵襲度(身体的負担の程度)などを検討して決定します。
2−3)は、当クリニックでは施行出来ませんので総合病院への紹介となります。菊名記念病院や済生会横浜市東部病院の場合、検査のみの依頼(医師の診察なし)を行い検査結果は当院で説明することも可能です。
  1. 24時間ホルター心電図検査:日常生活での胸痛が起きたときや労作時(運動や階段・坂道歩行など)に心臓の虚血で生じる心電図変化(異常)を調べます。
  2. 冠動脈造影CT:造影剤を使用して動脈硬化による冠動脈狭窄の有無と程度を調べます。この検査で冠動脈に動脈硬化がない事が確認出来た場合、冠動脈攣縮性狭心症の可能性が高くなります。
  3. トレッドミル運動負荷心電図検査:運動で胸痛発作が誘発されるときに行います。ジムなどにあるランニングマシンのような機器を使って運動を行いその時の心電図変化を調べます。

心エコー(心臓超音波)検査
狭心症の診断目的では通常行いませんが(大学病院などで運動/薬剤負荷心エコーを行うことはあります)、
心筋症、心筋炎、弁膜症などの他の心臓の病気や重症な狭心症に伴って起きる心室壁の運動異常や心不全などを診断・除外するために行います。

心臓カテーテル検査
典型的な症状が重い(発作時間が長い、痛みが強い、比較的頻回)が心電図やホルター心電図などで診断がつかない場合などに、心臓カテーテル検査を行って薬剤(アセチルコリンなど)による冠攣縮誘発試験を行う事もあります。この検査は入院が必要です。

Q7. 狭心症の治療に関して教えてください。
A7. 冠攣縮性狭心症を完全に治す治療は、残念ながらありません。
治療の目的は、重大な合併症(心筋梗塞・突然死など)の予防と症状のコントロール(胸痛発作予防)による日常生活の質(Quality of Life : QOL)の改善です。
発作の予防には精神的ストレスの軽減、禁煙、節酒が重要です。
胸痛発作の重症度に応じて薬剤が選択・組み合わされます。

薬剤

発作改善 胸痛が起きたときに頓服する薬剤です。
  • 短時間作用型硝酸薬(ニトログリセリン)

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発作予防 胸痛発作が起きないようにするために毎日服用する薬剤です。
抗狭心症薬 第一選択薬:カルシウム拮抗薬、硝酸薬(長時間作用型)
第二選択薬:ニコランジル
抗不安薬 精神的ストレスや不安が明らかな発作誘発因子でこれらにより発作が頻回に起きる場合に、発作の予防効果を認める事があります。
Q8. 予後(病気に関する医学的な将来の見通し)
A8. 冠攣縮性狭心症を完全に治す治療は残念ながらないため、発作予防の薬剤を生涯服用する必要があります。
薬剤による発作予防効果は高く、一旦効果が確認できた後は内服を継続することで特に制限のない日常生活を送ることが可能です。

診療案内