原発性アルドステロン症

PRIMARY ALDOSTERONIS

概要

原発性アルドステロン症は、高血圧症患者の5~15%を占め二次性高血圧症の代表的な原因疾患です。通常の高血圧症(本態性高血圧症)と比べても脳血管疾患や心不全・狭心症や心筋梗塞、心房細動などの不整脈、末梢動脈疾患、腎障害などの合併症が3-5倍多いことが報告されています。
病型によっては手術により根治することも可能であり、お薬による治療も通常の降圧薬とは第1選択薬が異なるため、最適な治療のためには適切な早期診断重要です。

診療方針

当クリニックでは、日本高血圧学会ガイドライン
日本内分泌学会コンセンサス・ステートメントなどに準拠します。
ガイドライン/コンセンサス・ステートメント 最新版
  • 日本内分泌学会 原発性アルドステロン症診療ガイドライン2021
  • 日本高血圧学会 高血圧治療ガイドライン 2019
  • 原発性アルドステロン症診療マニュアル 第3版

初診時の主な診療内容

1. 身長・体重測定、院内血圧測定(2回測って平均値を取ります)を行います

問診と診察 現在および過去の健康問題に関してお話を伺い、心臓の聴診などの診察を行います。
検査 血液生化学検査、胸部レントゲン、心電図、ABI、心エコー

これらの検査の詳細は Q&A「必要な検査の目的と種類を教えて下さい」 をご覧ください。

2. 診察と検査結果に基づきリスク評価を行います

リスク評価に用いる指標

  • 高血圧の程度
  • 年齢、性別
  • 喫煙
  • 脳血管疾患(脳梗塞や脳出血)
  • 心臓血管疾患(心筋梗塞、狭心症、心房細動などの不整脈、末梢動脈疾患など)
  • 腎臓機能(慢性腎臓病、蛋白尿)
  • 糖尿病
  • 脂質異常症

3. リスク評価に基づき、基本治療方針を決定します

詳細は Q&A「降圧薬を開始する基準」を参照ください。

4. 治療方法

基本は生活習慣の改善です。

Q&A「血圧を下げるために自分でできること」

Q&A「お薬(降圧薬)の種類」

初診時の血圧レベル別の高血圧管理計画

日本高血圧学会 高血圧治療ガイドライン2019

初診時の血圧レベル別の高血圧管理計画

状況は患者様によって多岐にわたりますので、治療方法やお薬の選択理由は診察時に個別に説明いたします。
お薬の開始時期に関しては、患者さまひとりひとりの状況に応じて判断します。

〈再診〉1~2か月毎に定期通院していただきます

1. 治療効果や副作用のチェックをします

家庭血圧を記入していただいたノートをお持ちいただき治療効果を判定するとともに、お薬の副作用などをチェックします。

2.〈血圧の目標〉

詳細はQ&A「高血圧は、どこまで下げれば良いのでしょう?」を参照ください。

3. お薬は「少量・多種類」が原則です

1種類目の薬の服用開始から3か月程度服用しても家庭血圧で降圧目標値に到達しない場合は、2種類目を追加します。以後、同様にして4種類目まで追加し、積極的な降圧治療を行います。

詳細はQ&A「血圧を下げるお薬(降圧薬)にはどのようなものがありますか?」を参照ください。

原発性アルドステロン症 Q&A

Q1. 原発性アルドステロン症とはどんな病気ですか?
A1.

副腎(Q2で説明しています)の片側にできた腫瘍(アルドステロン産生副腎皮質腺腫:良性腫瘍)や左右両方の副腎の働きが過剰になって(過形成:特発性アルドステロン症)、アルドステロンというホルモンが過剰に作られる病気です。高血圧症の原因となる病気で最も頻度が高く、全高血圧症患者さんの10%程度がこの病気が原因であると報告されています。

原発性アルドステロン症のような原因のある高血圧症を二次性高血圧症とよびます。体質や加齢、生活習慣の乱れなどが重なって起きてくるような特定の原因となる病気がない高血圧症は本態性高血圧症と呼ばれています。

Q2. 副腎とはどのような臓器ですか?
A2.

副腎は、腎臓の上についている小さな臓器で、左右にそれぞれ1つ合計2つあります。副腎の主な働きは、生命維持に必要なホルモンの産生・分泌です。副腎ホルモンには、主に以下の3種類があります。

1. アルドステロン 体内の水分と塩分のバランスをとり、余分なカリウムを腎臓から尿中へ排泄させるホルモン
2. カテコールアミン 自律神経を調節し、血糖や血圧を調節しているホルモン
3. コルチゾール 血糖を上昇させ、血圧や免疫などその他様々な体内の働きを調整しているホルモン
Q3. アルドステロンが多いとどうなりますか?
A3.

体内の水分や塩分量が増加し、その結果血圧が上がり高血圧症になります。カリウムの排泄が増加し、低カリウム血症を起こすと筋力が落ちたり疲れやすくなったりします。

また、アルドステロンが心臓、血管、腎臓に長期間過剰に作用することでこれらの臓器に障害が起きて、心不全、心房細動などの不整脈、脳卒中、腎不全などが起きる可能性が通常の高血圧症(本態性高血圧症)に比べて3~5倍高いことが知られています。

Q4. 副腎腺腫はがんですか?
A4.

いいえ、がんではありません。進行してがん化することもなく転移もしませんので心配はありません。しかし腫瘍のサイズが大きいとき(4cm以上)は、がんの可能性がありますので精査が必要です。

Q5. 原発性アルドステロン症になる原因はありますか?
A5.

家族性(遺伝性)の場合と遺伝子変異によるものとが考えられています。

Q6. 症状はありますか? また、どのようなときに調べる必要がありますか?
A6.

症状は、低カリウム血症による脱力などが生じることもありますが、一般的に症状はないことがほとんどです。

ほとんどの場合、高血圧症が原発性アルドステロン症を疑う唯一のきっかけです。しかしすべての高血圧患者さんを調べる必要はなく、下記の高血圧患者さんで詳しい検査が必要となります。

  1. 若年性(40歳以下)高血圧症
  2. 若年(40歳以下)で脳卒中を起こした方
  3. 高血圧の薬が効きにくい(高血圧の治療に3種類以上の降圧薬が必要となる場合)
  4. II度以上の高血圧症(血圧160/100mmHg以上)
  5. 睡眠時無呼吸症候群がある
  6. 血液検査で低カリウム血症がある
  7. ドックなどでおこなう腹部CTで副腎腫瘍を指摘された場合
Q7. どのような検査が必要ですか?
A7.

検査は3段階に分かれ、1. スクリーニング → 2. 機能確認 → 3. 病型確認の順で行われます。

1. スクリーニング検査
(血液検査:アルドステロン・レニン比
アルドステロンが多く作られていることを調べる検査です。
まずこの検査でアルドステロンが多く作られていることが確認できれば、次の機能確認検査を行います。
2. 機能確認検査 アルドステロンが、自律的に(他のホルモンやストレスや体位(立っているか、寝ているか)などの影響を受けずに)多く作られていることを確認する検査で以下の3種類に検査があります。すべてを行う必要はなく、どれか1つを選んで行います。この段階で陽性となれば確定診断となります。当クリニックでは、入院の必要がなく簡便で負担が少ない(a)を行います。(b)と(c)は入院が必要となります。
  • (a)カプトプリル試験
  • (b)生理食塩水負荷試験
  • (c)フロセミド立位負荷試験
3. 病型確認 機能確認試験で原発性アルドステロン症と診断後に手術を行うかどうかを決めるために行う検査です。
  • (a)副腎CT:外来でできます
  • (b)カテーテル検査(副腎静脈サンプリング):入院が必要です
Q8. スクリーニング検査について教えてください。
A8.

原発性アルドステロン症と診断するためには、まず下記を確認する必要があります。

アルドステロンが自律的に(他のホルモン:レニンの影響を受けないで)過剰分泌されていること

診療ガイドライン2021からアルドステロンの推奨される測定方法が変更され、それに伴い基準値も変更されました。

1)アルドステロン過剰分泌の確認:血漿アルドステロン濃度(PAC)を測定します。

血漿アルドステロン濃度(PAC)の測定法と判定値 旧:RIA法 陽性 ≧120ng/dL
新:CLEIA法 陽性 ≧60pg/mL

2)アルドステロンの自律的な産生:アルドステロン・レニン活性比(ARR)で判定します。
正常な場合、血圧にかかわるホルモンの1つであるレニンの産生が多いとアルドステロンも多く産生されます。
アルドステロンがレニンとは関係なく(自律的に)分泌されていることを確認するためにアルドステロンとレニン活性(PRA)の比を測定・計算します。

血漿アルドステロン濃度・血漿レニン活性比(ARR) 旧:RIA法 陽性 >200
新:CLEIA法 陽性 >200、境界域 100〜200、陰性 <100

1)2)が共に陽性となれば、原発性アルドステロン症の可能性が高くなり、確定診断のために機能確認検査を行います。

Q9. 機能確認検査について教えてください。
A9.

現在最も良く行われている検査は、カプトプリル試験です。当クリニックでもこれを行います。院内で カプトプリルという薬剤(ACE阻害薬=降圧薬)を服用していただき、服薬の前後で血症アルドステロン濃度(PAC)とレニン活性(PRA)を測定します。計3回の採血を行います。

30分安静臥床後採血 → カプトリル50mg内服 → 60分と90分後に採血

カプトプリルこの薬はアルドステロン濃度(PAC)を減らしレニン活性(PRA)を上げますが、原発性アルドステロン症の場合はアルドステロンが自律的に作られているため カプトプリルを服用してもアルドステロン濃度(PAC)は減少せずレニン活性も上がりません。60分または90分後のアルドステロンレニン比(ARR)200以上で陽性と判断します。結果は1週間ほどで出ます。

この検査が陽性となれば原発性アルドステロン症と確定診断します。

Q10. 病型確認検査に関して
A10.

原発性アルドステロン症は、片側のホルモン産生腫瘍(腺腫)によるものと両側のホルモン産生増加(過形成)による2つの病型があります。この2つを鑑別するために行う検査が病型確認検査です。鑑別する目的は、適切な治療法の選択のためです。前者(腺腫)は、手術(片側副腎摘出)により完治できる可能性があり、後者(過形成)は、副腎を両側2つとも取ることはできないため手術はできず、薬剤による治療となります。検査は以下の2つがあります。

1. 副腎CT(造影剤を使用します) 菊名記念病院へ検査依頼します(受診=医師の診察の必要はありません)。結果説明は、検査後1週間以内に当クリニックでおこないます。
2. カテーテル検査(副腎静脈サンプリング) 入院が必要ですので、必要と判断した場合や検査結果により手術を希望される場合に横浜労災病院 内分泌科などへ紹介します。
Q11. どのような治療法がありますか?
A11.

手術とお薬の2種類があります。手術は、片側性の副腎腺腫で適応となります。両側性の過形成の場合は手術はできません。お薬は、どちらの病型でも使用できます。アルドステロンの作用を抑えるミネラルコルチコイド拮抗薬(MRA)が第1選択薬です。

Q12. 治療に使うお薬について教えてください。
A12.

アルドステロンの作用を抑えるミネラルコルチコイド拮抗薬(MRA)が第1選択薬です。アルドステロン過剰による有害な作用を抑え、高血圧や低カリウム血症を改善します。MRAには、スピロノラクトン エプレレノンエサキセレノンの3種類があります。これら3種類のお薬の治療効果の差を示す明確なエビデンスはなく、腎機能など患者さんの状況を考慮して選択します。

スピロノラクトン 最も歴史のあるお薬です。ジェネリック薬もあり安価で用量調整の幅が大きいというメリットがありますが、男性ホルモンも抑えるため男性は乳房が女性のように大きくなる副作用(女性化乳房)が起きることがあります。
エプレレノン スピロノラクトンより新しいお薬です。アルドステロン作用をより直接的にブロックするため女性化乳房のような副作用はありません。
エサキセレノン 2019年3月から使用可能になった新しいお薬で、他の2剤が使用できないような腎機能が低下している患者さんにも使用可能とされます。

MRAで十分な降圧効果を得られない場合には、ACE阻害薬またはARBやカルシウム拮抗薬など他の降圧薬を併用します。

診療案内

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