微小血管狭心症

MICROVASCULAR ANGINA

概要

微小血管狭心症は、他の狭心症(動脈硬化性または冠攣縮性)より比較的新しい概念の病気で、臨床的に広く認知され始めたのは2000年代に入ってからです。
近年、心筋虚血に対する検査法の進歩やこのタイプの狭心症の認知度が上がることにより、日常の臨床現場で微小血管狭心症が診断されることが増えてきました。
また、これまで一般的に予後(病気に関する将来の医学的な見通し)は良好とされていましたが、健康な人より心血管イベント(心筋梗塞や心不全、突然死など)のリスクが高いことがわかってきました。
まだ世界的にも一般的な医療施設で積極的な診断や治療が行われていないため大規模な臨床研究がなく医学的なエビデンスに基づいた治療は未だ確立されていませんが、これまでの研究から適切な薬剤による症状(胸痛発作)のコントロールにより生活の質(QOL)の維持をはかり、重大な心血管イベントを抑制することが期待されています。

診療方針

当クリニックでは日本循環器学会、欧米循環器系ガイドライン最新版、医学レビュー論文、およびオンライン医学テキスト「Up to Date」に準拠します。

ガイドライン最新版(2021年8月時点)
  • 日本循環器学会 慢性冠動脈疾患診断ガイドライン(2018年改訂版)
  • 日本循環器学会 冠攣縮性狭心症の診断と治療に関するガイドライン(2013年改訂版)
  • 2014 ACC/AHA/AATS/PCNA/SCAI/STS Focused Update of the Guideline for the Diagnosis and Management of Patients With Stable Ischemic Heart Disease
  • 2018 Reappraisal of Ischemic Heart Disease: Fundamental Role of Coronary Microvascular Dysfunction in the Pathogenesis of Angina Pectoris.
  • 2019 ESC Guidelines for the diagnosis and management of chronic coronary syndromes

初診時の主な診療内容

1. 身長・体重測定、院内血圧測定(2回測って平均値を取ります)

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問診と診察 現在および過去の健康問題や現在の症状に関して詳細なお話を伺い、心臓の聴診などの診察を行います。
検査 心電図、ABI、胸部レントゲン、心エコー、ホルター心電図検査、血液生化学検査、尿検査などを行います

2. 診察と検査結果に基づき診断または状態の評価を行います。

診断に当たって重要なことは、他の狭心症(動脈硬化性および冠攣縮性との鑑別です。
微小血管狭心症の患者さんは動脈硬化の危険因子を有することが多いと報告されており、下記に挙げる動脈硬化の主なリスクに関しても評価が必要です。

  • 糖尿病
  • 脂質異常症(特に高LDLコレステロール血症)
  • 高血圧症
  • 喫煙者

3. 治療方法:評価と診断に基づき治療方針を決定します。

基本:動脈硬化危険因子(高血圧症、糖尿病、脂質異常症、喫煙など)の管理は重要です。

  • 治療目標:重大な心血管イベント(急性心筋梗塞や心不全の発症、心臓血管病による死亡など)の予防、胸痛発作予防と生活の質(QOL)の改善です。
  • 当クリニックで選択する薬剤は原則下記となります。 下記の中からそれぞれの病状に応じて最適な薬剤を選択・組み合わせます。
    抗狭心症薬
    β遮断薬、カルシウム拮抗薬

再診に関して

お薬による治療開始時には1ヶ月ごと、状態が安定してからは2-3ヶ月ごとの定期通院が必要です。

微小血管狭心症 Q&A

Q1. 微小血管狭心症とはどのような病気ですか?
A1. 他の狭心症と同様な胸痛発作があり、ホルター心電図や運動負荷心電図検査や心筋シンチグラムなどの検査によって狭心症に典型的な異常(虚血所見)を示しますが、冠動脈造影CTやカテーテルを用いた冠動脈造影検査(心臓カテーテル検査)で冠動脈に狭窄部位が全くないか軽度(心筋虚血を生じないとされる狭窄度50%未満)で、これらの検査によって冠動脈に胸痛の原因を見つけることができない狭心症のことです。このように通常の検査では視覚化できない非常に細い(径 <500μm)冠動脈の 機能異常で虚血が生じていると考えられていることから「微小血管」狭心症と呼ばれています。
Q2. どのような人に起きますか?
A2. 性別にかかわらず発症しますが、女性に多いとされています。
診断を受けた患者さんの平均年齢は50歳くらいで、動脈硬化性狭心症の発症年齢より比較的若い年齢での発症です。
胸痛があり冠動脈造影CTや冠動脈カテーテル検査などで冠動脈が正常な女性の20~50%に認められるとする複数の研究報告があります。
このような患者において、狭心症は否定的であるとして適切な薬物療法が行われない可能性が指摘されています。
冠動脈に狭窄や攣縮がないとされても、狭心症に典型的な胸痛を示し、24時間ホルター心電図や負荷心電図検査、負荷心筋シンチグラムや心臓MRIなどで心筋虚血が明らかな場合には微小血管狭心症の可能性を考えるべきです。
Q3. 原因を教えてください。
A3. 冠動脈微小血管の循環障害が関与するとされており、下記が中心的な病因と考えられています。
  1. 冠動脈微小血管の攣縮(痙攣):冠動脈の壁内に存在する血管平滑筋(動脈を収縮させる筋肉)の過敏性亢進
  2. 血管内皮細胞の障害
  3. 冠動脈微小血管の拡張障害
Q4. 症状を教えてください。
A4. 狭心症に典型的な胸痛を起こします。 胸痛が起きるタイミングは人によって異なり、運動のみで誘発され安静時には起きないこともあれば、運動では誘発されず安静時に起きることも、また運動時にも安静時の両方で起きることもあります。どのタイミングで胸痛が起きるのかは、その病因によります。
  1. 血管内皮細胞や微小血管の拡張障害が病因の場合 → 運動時に胸痛を起こします。
  2. 微小血管の攣縮(痙攣)が病因の場合 → 安静時に発作が生じます。
  3. すべての病因が関わっている場合 → 運動と安静にかかわらず胸痛を起こします。
Q5. 診断はどのように行いますか?
A5. 世界的に標準となるような医学的エビデンスに基づいた診断基準はまだ確立されておらず、日本循環器学会も明確な診断基準を定めていません。

専門家による国際的な研究グループ:Coronary Vasomotion Disorders International Study Group(COVADIS)によるコンセンサスとして下記診断基準が提唱されています。
4つの基準がすべて揃った場合に確定的な微小血管狭心症と診断されます。

  1. 心筋虚血の症状:狭心症に典型的な労作作性胸痛および/または安静時胸痛
  2. 心筋虚血の客観的証拠:胸痛時の虚血性心電図変化、ストレス誘発性胸痛および/または虚血性心電図変化、および/または一過性/可逆的な心筋灌流異常または壁運動異常の存在
  3. 冠動脈CT(コンピュータ断層撮影)または侵襲的冠動脈造影による閉塞性CAD(50%未満の狭窄または0.80以上の血流予備能)がないこと
  4. 冠動脈カテーテル検査による冠状動脈微小血管機能の低下の確認

当院での診療

詳細な問診によって症状から狭心症が疑われるもしくは否定できない場合には、受診当日に施行した(胸痛が起きていないときの)心電図が正常であることを確認し、下記に示す詳しい検査を行います。
全ての検査を行うわけではなく、下記の中からどの検査を選択・組み合わせるかは、狭心症の可能性の程度や検査の侵襲度(身体的負担の程度)などを検討して決定します。
2−4)は、当クリニックでは行えませんので総合病院への紹介となります。菊名記念病院や済生会横浜市東部病院の場合、検査のみの依頼(医師の診察なし)を行い検査結果は当院で説明することも可能です。

  1. 24時間ホルター心電図検査:日常生活での胸痛が起きたときや労作時(運動や階段・坂道歩行など)に心臓の虚血で生じる心電図変化(異常)を調べます。
  2. トレッドミル運動負荷心電図検査:運動で胸痛発作が誘発されるときに行います。心電計を装着してジムなどにあるランニングマシンのような機器を使って運動を行いその時の心電図異常を調べます。
  3. 運動または薬剤負荷心筋シンチグラム:心筋虚血を検出する検査で運動負荷心電図検査より高い精度を持ちます。身体的な問題によって運動ができない方には薬剤負荷による検査が可能です。
  4. 冠動脈造影CT:造影剤を使用して動脈硬化による冠動脈狭窄の有無と程度を調べます。この検査で冠動脈に動脈硬化がない事が確認できた場合、動脈硬化性性狭心症はほぼ否定できます。

心エコー(心臓超音波)検査
狭心症の診断目的では通常行いませんが(大学病院などで運動/薬剤負荷心エコーを行うことはあります)、心筋症、心筋炎、弁膜症などの他の心臓の病気や重症な狭心症に伴って起きる心室壁の運動異常や心不全などを診断・除外するために行います。

心臓カテーテル検査
前述した診断基準では微小血管狭心症の確定診断に必要とされている検査です。
検査によって確定診断が可能ですが、前述の検査によりほぼ診断がついている場合は治療方針に大きな変更がないことやこの検査には入院が必要で経済的・身体的負担が比較的大きい検査であることから、当院ではそのメリットとデメリットをよく相談した上でこの検査を行うか決定します。検査を行う場合は、近隣の施設へ紹介します。

Q6. 治療に関して教えてください。
A6. 微小血管狭心症を完全に治す治療は、残念ながらありません。
重大な心血管イベント(急性心筋梗塞や心不全の発症、心臓血管病による死亡など)の予防および胸痛発作予防と生活の質(QOL)の改善です。
動脈硬化の危険因子(高血圧症、脂質異常症、糖尿病、喫煙)をお持ちの場合、それらの管理・治療も重要となります。
胸痛発作の重症度や病因に応じて薬剤が選択・組み合わされます。

薬剤

発作改善 短時間作用型硝酸薬(ニトログリセリン)

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発作予防 抗狭心症薬 第一選択薬:β遮断薬、カルシウム拮抗薬
第二選択薬:ニコランジル
抗不安薬 精神的ストレスや不安が明らかな発作誘発因子でこれらにより発作が頻回に起きる場合に、抗狭心症薬に追加して服用すると発作の予防効果を認める事があります。

決定的な研究はありませんが、β遮断薬は狭心症の頻度と重症度の軽減、および運動耐容能の改善に最も効果的であるとされています。
動脈硬化性狭心症に対して処方される長時間作用型硝酸薬の経口薬は、微小血管狭心症には効果が低いとされており専門家のコンセンサスでも推奨されていません。

Q7. 予後(病気に関する医学的な将来の見通し)
A7. 一般的に予後(病気に関する将来の医学的な見通し)は良好とされていましたが、健康な人より心血管イベント(心筋梗塞や心不全、突然死など)のリスクが高いことがわかってきました。
微小血管狭心症を完全に治す治療は残念ながらないため、発作予防の薬剤を生涯服用する必要があります。
薬剤による発作予防効果は高く、一旦効果が確認できた後は内服を継続することで特に制限のない日常生活を送ることが可能です。

診療案内

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