心室頻拍/心室細動

ventricular tachycardia / ventricular fibrillation

概要

心室頻拍と心室細動は最も危険な不整脈であり、突然死を起こす原因です。日本における突然死の約60%が心臓によるもの(心臓突然死)と報告されており、年間で約6万人が心臓突然死を起こしているとされています。その心臓突然死のほとんどが心室頻拍・心室細動によって起きています。心臓突然死は、文字通りある日突然おき、多くはその予兆(患者さんが自覚する前兆)も無いことから予防が重要となります。予防には心室頻拍や心室細動の原因となる基礎心疾患(特に狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患や心筋症、ブルガダ症候群など)の診断と治療が最も重要です。一方、原因が明確でない「特発性」と呼ばれる心室頻拍や心室細動もあり、通常の健診や診療では心臓に明らかな異常を認めないため、残念ながら突然死の予防は困難です。この場合は、心室頻拍や心室細動が起きたときの迅速な対応(発症から10分以内)が救命のために非常に重要となります。救命のための「キー」は、発見者が救急車の到着まで待たずに直ちに行う胸骨圧迫自動体外式除細動器(AED)による電気ショックです。

診療方針

当クリニックでは日本循環器学会、欧米循環器系ガイドライン最新版、およびオンライン医学テキスト「Up to Date」 に準拠します。

ガイドライン最新版(2022年4月時点)
  • 日本循環器学会/日本不整脈心電学会合同 2022年改訂版 不整脈の診断とリスク評価に関するガイドライン
  • 日本循環器学会/日本不整脈心電学会合同 不整脈薬物治療ガイドライン(2020年改訂版)
  • 日本循環器学会/日本不整脈心電学会合同 不整脈非薬物治療ガイドライン(2018年改訂版)
  • 2017 AHA/ACC/HRS Guideline for Management of Patients With Ventricular Arrhythmias and the Prevention of Sudden Cardiac Death
  • 2020 American Heart Association Guidelines for CPR and ECC
  • 日本蘇生協議会(JRC)蘇生ガイドライン2020

初診時の主な診療内容

1. 身長・体重測定、院内血圧測定(2回測って平均値を取ります)

問診と診察:現在および過去の健康問題や現在の症状に関して詳細なお話を伺い、心臓の聴診などの診察を行います。
検査:心電図、ABI、胸部レントゲン、心エコー、24時間ホルター心電図検査、血液生化学検査、尿検査などを行います。

2. 診察と検査結果に基づき診断または状態の評価を行います。

診断に当たって重要なことは、心室頻拍/心室細動の評価と原因の精査です。
特に失神歴や家族歴などの詳細な問診は重要です。
基本的な検査に加えて、心室頻拍/心室細動の評価に24時間ホルター心電図検査と原因(基礎疾患)として最も重要な心臓病の精査に心エコーが必須となります。

3. 治療方法

基礎疾患の治療が最も重要であり、治療法は基礎疾患によって決定されます。
基礎疾患が無い場合(特発性心室頻拍)は、問診とホルター心電図の評価により経過観察、薬物療法、カテーテル・アブレーション、などが考慮されます。さらに基礎疾患の有無にかかわらず、突然死のリスクが高いと判断された場合には、突然死を予防するために植え込み型除細動器(ICD)が考慮されます。

心室頻拍/心室細動Q&A

Q1. 心室頻拍/心室細動とはどのような病気ですか?
A1. 心室頻拍は、心室期外収縮が心拍数101/分以上で3拍以上連続して起きる「頻拍性不整脈」と定義され、その電気波形や頻拍が起きている持続時間により危険性が評価されます。

1)波形:波形の形が比較的そろっている「単形性」と一つ一つの波形が多様な形を示す「多形性」に分類され、一般的に多形性の方が危険性が高いとされています。

2)持続時間:「非持続性(30秒以内に自然停止するもの)」と「持続性(30秒以上続くもの)」に分類され、持続性の方が危険性が高いとされています。

心室細動は、心電図上明確な心臓の電気波形が区別できなくなり単に波形が小さく不規則に波打っているように見える状態です。この状況では、心臓は細かく不規則に震えているため血液をポンプできない状態となり、脳やその他の重要臓器に血液を供給できず心停止状態となります。この状態が10分以上続くと死に至り、突然死をきたします。心室頻拍もその心拍数が極端に速くなると(200〜230/分以上)、心臓はポンプ機能を失い心室細動と同じ状態になります。

単形性非持続性心室頻拍
単形性非持続性心室頻拍(6連発:約2.5秒間)

単形性非持続性心室頻拍
多形性持続性心室頻拍

Q2. どのような人に起きますか?
A2. 虚血性心疾患や心筋症、心不全など心臓の基礎疾患を持っている方に起きることが多く、このような疾患を持っている方々は心室頻拍や心室細動による突然死の予防と管理が必要であり専門医による診療の継続が重要です。比較的稀な疾患ですがブルガダ症候群やQT延長症候群、不整脈源性右室心筋症など遺伝性不整脈なども原因として重要です。また、原因不明の特発性心室頻拍もあり、その症状としての「動悸や失神」には特に注意が必要です。
Q3. 症状はどのようなものですか?
A3. 頻拍性動悸(全力で走ったときのように心臓がバクバクと速く打つ)、失神、突然の心停止などがあります。非持続性心室頻拍の大多数では無症状ですが、持続性心室頻拍になると動悸や失神を起こすことがあります。基礎心疾患がある場合やブルガダ症候群など遺伝性不整脈がある場合には失神や突然の心停止で発症することもあります。心電図異常を指摘され、失神や夜間睡眠時に一時的に苦しそうな呼吸をしていることを同室の方から指摘されているような場合には、心室頻拍や心室細動を起こしている可能性があり早急な受診が必要です。失神は、心臓によるものや自律神経の不調によるものなど原因は様々であり、その鑑別には専門医による問診が重要です。
Q4. 無症状でも受診した方が良いですか?
A4. 心室頻拍を指摘された場合には、無症状であっても循環器専門医を受診して下さい。診察と検査の結果、Q5に示すような重大な心臓病(心筋症や心不全など)が発見されることもあります。基礎心疾患がない場合でも、詳細な問診や診察によって患者さんご自身では認識できない症状や既往歴(過去にかかった病気など)、24時間ホルター心電図による心室頻拍の評価などで治療が必要と判断されることもあります。
Q5. 心室頻拍を指摘された場合、注意すべき他の病気を教えてください。
A5. 心室頻拍を起こす主な基礎心疾患として下記が挙げられます。
  • 左室肥大を伴う高血圧:高血圧患者における左室肥大の存在は、心室頻拍/心室細動の高い有病率と関連しています。また、左室肥大は心室頻拍/心室細動を起こす率が高く、高い死亡率とも関連しています。
  • 虚血性心疾患
  • 心不全
  • 心筋症(肥大型・拡張型)
  • 心筋炎
  • 不整脈源性右室心筋症
  • ブルガダ症候群
Q6. どのような検査を行いますか?
A6. Q5に示したような病気を精査するためにも、血液・尿検査や心電図・胸部レントゲンなど一般的な検査に加えて以下の検査が基本になります。

1)24時間ホルター心電図検査:ホルター心電計と呼ばれる小さな測定器(本体:約5x5cm、約60g)とそれに接続して心臓からの電気をひろう電極と電線を身体の表面に装着します。装着後は普段の生活をしていただき(運動やシャワーも可能です)、24時間心臓の電気活動を記録することにより不整脈とその発生状況を診断します。心室頻拍には必須の検査です。

2)心エコー(心臓超音波)検査:心電図異常の原因となる他の心臓の病気の有無を確認します。心筋症、心筋炎などの他の心臓の病気や虚血性心疾患に伴って起きる心室壁の運動異常、心肥大や心不全などを診断・除外するために行います。

3)その他、CTやMRI等による詳しい検査が必要になる場合もあり、その場合には近隣の病院へ紹介をさせていただきます。

Q7. 治療に関して教えてください。
A7. 治療の目的は、発生しうる危険な不整脈(心室頻拍や心室細動)の抑制とそれら不整脈による突然死の予防です。
不整脈の抑制には、抗不整脈薬(キニジンやアミオダロン)が用いられます。
抗不整脈薬は不整脈の発生を抑制する(減らす)ことはできますが、完全に無くすことはできません。したがって、抗不整脈薬を服用しているにもかかわらず心室頻拍や心室細動が発生する可能性があり突然死の危険性が残るため、それらの不整脈を停止させるためには電気ショックが必須となりますが、電気ショックが有効な時間は限られています(不整脈の発生から10分以内)。発生時にすぐに救急車を要請しても間に合わないことがほとんどであり、また発生時に誰も周囲にいない場合には救命はほぼ不可能です。
このような状況に備えるために、突然死の危険性が高いと判断された場合には、植え込み型除細動器(ICD)とよばれる電気ショックを心臓に与えるための小さな機械(サイズ7x5cm、重さ70g程度)を体内(胸部の皮膚の下)に植え込みます。この機械は24時間365日心臓のリズムを常にモニターし、持続性の心室頻拍や心室細動を検知した時に自動で電気ショックを心臓に与えます。

診療案内

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