僧帽弁閉鎖不全症

Mitral regurgitation

概要

僧帽弁閉鎖不全症(MR)とは、心臓の左心房と左心室の間にある“僧帽弁”という弁がうまく閉じなくなり、血液が逆流してしまう病気です。この逆流が続くと、心臓に余分な負担がかかり、心不全(心臓の働きが弱まる状態)や不整脈(脈の乱れ)を引き起こすリスクが高まります。原因としては、弁自体の老化や、リウマチ熱、心筋梗塞による弁周辺組織の異常などが挙げられます。日本を含む先進国では、高齢化とともに発症率が上昇する傾向があり、60歳以上の方の数%で中等度以上の逆流が認められるとの報告があります。軽度の逆流では症状が出にくいことも多いですが、進行すると息切れや疲れやすさなど生活に支障をきたす症状が現れ、最終的には重度の心不全につながる可能性があります。定期的な検査と適切な治療によって、症状の進行を抑えたり、心臓の機能を維持したりすることが期待できます。特に無症状の段階から経過を把握することが重要であり、医師の指示に従い、早期の評価と必要な治療を受けることで、合併症のリスクを減らせます。

診療方針

当クリニックでは日本循環器学会、欧米循環器系ガイドライン最新版、
およびオンライン医学テキスト「Up to Date」 に準拠します。
ガイドライン最新版(2025年3月時点)
  • 日本循環器学会/日本胸部外科学会/日本血管外科学会/日本心臓血管外科学会合同ガイドライン
    2020年改訂版 弁膜症治療のガイドライン
  • 2020 ACC/AHA Guideline for the Management of Patients With Valvular Heart Disease
  • 2021 ESC/EACTS Guidelines for the Management of Valvular Heart Disease

初診時の主な診療内容

1. 身長・体重測定、院内血圧測定(2回測って平均値を取ります)

問診と診察 現在および過去の健康問題や現在の症状に関して詳細なお話を伺い、心臓の聴診などの診察を行います。
検査 心電図、ABI、胸部レントゲン、心エコー、ホルター心電図検査、血液生化学検査、尿検査などを行います。
特に心エコーは、弁の構造・機能とポンプ機能を評価する上で必須の検査となります。

2. 診察と検査結果に基づき診断および状態の評価を行います。

診断に当たって重要なことは、心臓ポンプ機能と動脈硬化リスクの評価も併せて行うことです。心筋症の患者に対しても動脈硬化の主な下記リスクに関して評価が必要です。

  • すでに動脈硬化性疾患(狭心症や心筋梗塞、脳卒中、末梢動脈疾患)を起こしたことがある方
  • 糖尿病
  • 脂質異常症(特に高LDLコレステロール血症)
  • 高血圧症
  • 喫煙者
  • 慢性腎臓病(CKD)

3. 治療方法:診断と重症度評価に基づき治療方針を決定します。

再診に関して お薬による治療開始時には1ヶ月ごと、状態が安定してからは2-3ヶ月ごとの定期通院が必要です。

僧帽弁閉鎖不全症 Q&A

Q1. 僧帽弁閉鎖不全症とはどのような病気ですか?
A1. 僧帽弁閉鎖不全症は、左心房と左心室の間にある僧帽弁がきちんと閉じず、血液が逆流してしまう病気です。逆流は心臓に余計な負担をかけ、長期的には心不全や不整脈といった合併症を引き起こす恐れがあります。主な原因は加齢による弁組織の変性、リウマチ熱や心筋梗塞による弁や腱索の損傷、先天的な弁の形態異常などが挙げられます。軽度では症状に気づかないこともありますが、放置すると息切れや疲労感など日常生活に影響する症状が出現し、心機能の低下につながります。早期発見と適切な管理のため、定期的な検査が重要です。
Q2. どのような人に起きますか?
A2. 僧帽弁閉鎖不全症は、高齢者を中心に発症が増える傾向があります。加齢により僧帽弁や腱索が弱くなり、弁が十分に閉じにくくなるのが主な要因です。また、心筋梗塞で弁を支える筋肉が傷ついたり、リウマチ熱の後遺症によって弁が硬化したりするケースもあります。先天的に弁の形態に異常がある場合は、若い世代でも起こる可能性があります。さらに、糖尿病や高血圧、脂質異常症といった生活習慣病は血管や心臓に負担をかけるため、進行のリスクが高まります。喫煙や肥満なども注意が必要です。
Q3. 症状はどのようなものですか?
A3. 初期や軽度の僧帽弁閉鎖不全症では、症状がほとんど現れないことも多いです。しかし、逆流が進むにつれて、軽い動作や階段の上り下りで息切れを感じたり、疲れやすくなったりします。動悸(胸がドキドキする感覚)や横になったときの息苦しさ(起坐呼吸)が表れる場合もあり、さらに心臓の負担が大きくなると、むくみや体重増加などの心不全症状が出る可能性があります。こうした症状はゆるやかに進行することが多いため、わずかな体調の変化でも早めに受診して検査を受けることが大切です。
Q4. どのような検査を行いますか?
僧帽弁閉鎖不全症の診断と重症度の評価には、心臓超音波検査(エコー)が最も重要です。エコーを使うことで、弁の形状や血液の逆流の程度、心臓の収縮・拡張機能などを観察できます。心電図や胸部X線検査では、不整脈の有無や心臓の拡大、肺うっ血の状態などを確認します。より詳細な情報が必要な場合は、CTやMRI、心臓カテーテル検査で血管や弁周囲の構造を立体的に把握することもあります。これらの結果を総合し、治療方針や経過観察の頻度を決定します。
Q5. 無症状でも経過観察や治療は必要ですか?治療をしなかった場合どうなりますか?
A5. 無症状でも、僧帽弁閉鎖不全症が認められれば定期的な検査や医師の診察が重要です。軽度でも心臓に負担がかかり続けると、逆流が進行して心不全や不整脈が起きるリスクが高まります。症状が出てから対処する場合、既に心臓機能が低下している可能性があり、治療の効果が十分に得られにくいことがあります。定期的にエコー検査を行い、逆流の変化や心臓の状態を把握することで、必要なタイミングで投薬や手術など適切な治療を開始できます。放置は合併症のリスクを増大させるため避けましょう。
Q6. 治療に関して教えてください。
A6. 治療は逆流の重症度や心臓機能、症状の有無を総合的に判断して決まります。軽度かつ症状がなければ定期検査による経過観察を中心に行い、逆流が中等度以上で症状がある場合は手術やカテーテル治療を検討します。代表的な手術は僧帽弁形成術(弁を修復して残す)と僧帽弁置換術(人工弁に交換)で、弁の損傷具合により選択されます。最近ではMitraClipなどの経カテーテル的治療も進歩しており、開胸手術が難しい方にも治療の選択肢が広がっています。適切な時期に適切な治療を受けることで、長期予後が改善します。
Q7. お薬で治すことはできますか?
A7. 僧帽弁閉鎖不全症そのものを薬だけで根本的に治すことは難しいですが、薬物療法は症状の緩和と進行予防に有効です。具体的には、利尿薬が過剰な水分を排出し、心臓の負担を軽くします。血圧を下げたり血管を拡張する薬は、逆流量を減らして心機能を保つのに役立ちます。また、不整脈がある場合は抗不整脈薬が用いられます。こうした薬は手術までの症状コントロールや、術後の安定に効果的です。医師の指示に従って内服を継続し、定期的な検査で心機能の変化をチェックすることが大切です。
Q8. MitraClipとはどのような治療ですか?
A8. MitraClipは、カテーテルで僧帽弁の逆流を抑える先進的な治療法です。足の付け根からカテーテルを挿入し、逆流部位の弁をクリップでとめて閉鎖不全を改善します。開胸手術より負担が少なく、高齢や合併症のある方にも適応される場合があります。治療後は逆流量が減り、心臓の負担が軽くなるため、息切れなどの症状緩和が期待できます。ただし、弁の形状や全身状態により適応は異なり、合併症リスク(血栓など)もゼロではありません。術後は定期検査で弁機能を確認し、合併症に注意します。
Q9. 患者さんが日常生活で気をつけることを教えて下さい。
A9. 日常生活では、まず塩分や脂質を控えたバランスの良い食事を心がけ、心臓への負担を減らしましょう。適度な運動や体重管理も欠かせません。喫煙は血管を傷つけて高血圧や動脈硬化を促進するため、禁煙が強く推奨されます。アルコールは過度の摂取を避け、適量にとどめてください。ストレスは血圧を上げる要因となるので、十分な休息や睡眠を確保し、心身の健康を維持することも重要です。息切れやむくみなど、普段と違う症状に気づいたら早めに受診し、重症化を防ぎましょう。

診療案内

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