心不全

概要

世界では約6,400万人が心不全を抱えていると推定され(2020年ESC報告)、日本でも高齢化に伴って心不全の患者数は年々増加し、推計で100万人以上の心不全患者がいるとされ、2030年頃には130万人を超える見込みです(日本循環器学会の報告より)。

高血圧や糖尿病などの生活習慣病も増える中、今後は入院患者の大幅な増加が予測され、「心不全パンデミック」として社会的・経済的負担も深刻化しています。
心不全は一度なると慢性化しやすく、再入院を繰り返すうちに症状が進行し、死亡率も高まります。そのため、心不全の予防・早期発見・適切な治療の実施が世界的な最重要課題と位置づけられています。特に日本では超高齢社会の進行に伴い、患者数の急増が懸念され、医療現場のみならず社会全体として備えが求められています。こうした状況下で「心不全パンデミック」を食い止めるには、リスク因子のコントロールと医療体制の充実が欠かせません。

診療方針

当クリニックでは日本循環器学会、欧米循環器系ガイドライン、およびオンライン医学テキスト「Up to Date」に準拠します。

ガイドライン最新版(2025年1月時点)
  • 日本循環器学会 / 日本心不全学会合同ガイドライン
      急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)
      2021年 JCS/JHFS ガイドライン フォーカスアップデート版 急性・慢性心不全診療
  • 2022 AHA/ACC/HFSA Guideline for the Management of Heart Failure
  • 2021 ESC Guidelines for the diagnosis and treatment of acute and chronic heart failure
  • 2023 Focused Update of the 2021 ESC Guidelines for the diagnosis and treatment of acute and chronic heart failure

初診時の主な診療内容

1. 身長・体重測定、院内血圧測定(2回測って平均値を取ります)

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問診と診察 現在および過去の健康問題や現在の症状に関して詳細なお話を伺い、心臓の聴診などの診察を行います。
検査 心電図、ABI、胸部レントゲン、心エコー、ホルター心電図検査、血液生化学検査、尿検査などを行います。
特に心エコーは、心臓の構造とポンプ機能を評価する上で必須の検査となります。

2. 診察と検査結果に基づき診断および状態の評価を行います。

診断に当たって重要なことは、心臓ポンプ機能の評価と基礎心疾患や動脈硬化リスクの有無です。

心不全患者に対しても動脈硬化の主な下記リスクに関して評価が必要です。

  • すでに動脈硬化性疾患(狭心症や心筋梗塞、脳卒中、末梢動脈疾患)を起こしたことがある方
  • 糖尿病
  • 脂質異常症(特に高LDLコレステロール血症)
  • 高血圧症
  • 喫煙
  • 慢性腎臓病(CKD)

3. 治療方法

評価と診断(分類)に基づき治療方針を決定します。基本は薬物療法です。

心不全に用いられる薬剤には下記がありますが、症状や心不全の重症度に基づいて選択します。

  1. アンギオテンシン変換酵素阻害剤(ACEI)/アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)/アンジオテンシン受容体・ネプリライシン阻害薬(ARNI)
  2. β遮断薬
  3. ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)
  4. SGLT2阻害薬
  5. ループ利尿薬
  6. イバブラジン
  7. ベリシグアト
  8. ジゴキシン

再診に関して

お薬による治療開始時には1ヶ月ごと、状態が安定してからは2-3ヶ月ごとの定期通院が必要です。

心不全 Q&A

Q1. 心臓の働きを教えてください
A1. 心臓の基本的な役割は、血液を全身に循環させるポンプです。心臓は筋肉でできた袋状の臓器で、筋肉が収縮することで心臓から血液を送り出します。
 心臓の部屋は心房と心室にわかれ、それぞれ左右にあり計4つの部屋(左心房・右心房、左心室・右心室)があります。
 心房は肺や全身からの血液が戻ってくる部屋で、心室は肺や全身に血液を送り出す部屋です。
 各々の部屋が協調して収縮と拡張を繰り返す(ポンプする)ことで全身の血液を循環させています。
 左心室は、血液を全身に送り出すいわばメインポンプの役割を担っており、4つの部屋の中で最も重要な部屋です。
Q2. 心不全とはどのような病気ですか?
A2. 心不全とは心不全は、心臓がさまざまな原因で弱ってしまい、全身に十分な血液を送れなくなる状態です。その結果、全身の組織や臓器が酸素不足となり、息切れ、むくみ、倦怠感(けんたいかん)などの症状が現れます。放置すると症状が悪化し、命にかかわる場合があります。 心不全は重症度によって次のようにステージ分類されます
心不全のステージ分類(ACC/AHAステージ)
  • ステージA:心不全の素因はある(高血圧・糖尿病など)が、心臓機能が低下している証拠はまだない状態、心不全治療薬の必要はありません
  • ステージB:心機能の低下がみられるが、症状はまだ出現していない状態だが、この状態から進行を止めるまたは心機能を改善させるため心不全治療薬を開始することも多い
  • ステージC:心不全の症状が出ており、治療が必要な状態
  • ステージD:治療を行っても症状が抑えきれず、重度の心不全状態
心不全ステージ分類におけるそれぞれのステージの予後
  • ステージA/B:症状はないか軽度で、適切な治療や生活習慣の改善により進行を予防できる
  • ステージC:症状が出現する段階だが、薬物療法やリハビリ、生活改善によって症状コントロールと予後の改善が期待できる
  • ステージD:重症で、薬物療法やデバイス治療(植込み型除細動器など)でもコントロールが難しい場合が多い。ただし心臓移植などの先進治療が適応となることもあるQ5:心不全と関係している病気や状態
Q3. どのような人に起きますか?
A3.
  • 高血圧、糖尿病、脂質異常症、肥満などの生活習慣病がある方
  • 虚血性心疾患(狭心症や心筋梗塞:リンク)など、心臓自体の病気がある方
  • 不整脈(特に心房細動)、心筋症(心臓の筋肉の病気)などをもつ方
  • 高齢者(加齢による心臓の弾力低下)
  • 心臓弁膜症(弁の狭窄や逆流)
  • 過度の飲酒、喫煙、ストレスなどで心臓に負担がかかる方
Q4. 症状はどのようなものですか?
A4.

代表的な症状

  • 息切れ、呼吸困難(特に階段の上り下りや重いものを持ったとき)
  • 足や下肢のむくみ(両側)
  • 倦怠感や疲れやすさ
  • 横になると咳や呼吸困難が出やすくなる:息苦しくなるため横になれない(起坐呼吸)、夜間の呼吸苦(夜間発作性呼吸困難)
  • 体重増加(むくみや水分貯留による)

NYHA分類:症状の程度による重症度分類で世界的に広く用いられています

  • I度:日常生活で症状はほとんどない
  • II度:少し強めの運動や長時間の動作で息切れなどの症状が出る
  • III度:軽い運動や日常的な動作でも症状が出るが、安静にしていれば症状は落ち着く
  • IV度:安静にしていても呼吸困難などの症状が出る
Q5. 心不全の型(収縮障害と拡張障害、EFによる分類)
A5. 心不全は、主に収縮機能(血液を押し出す力)が低下した型と、拡張機能(心臓が血液を受け入れる際のゆとり)が低下した型に分かれます
収縮機能は、左室駆出率(Ejection Fraction:EF)によって評価されます。
・ EF(左室駆出率)とは?
  • 左心室から拍出される血液量の割合で、心臓のポンプ機能の最重要指標。心エコーや心臓カテーテル検査、心臓MRIなどによって測定されます。
  • 正常はおよそ50〜70%程度
・ EFによる分類
  • HFrEF(ハフレフ):EFが40%未満の収縮障害を主体とした心不全
  • HFmrEF(ハフマーレフ):EFが40〜49%の中間の心不全
  • HFpEF(ハフペフ):EFが50%以上の拡張障害を主体とした心不全
Q6. どのような検査を行いますか?
A6. 以下の検査を状況に応じて行います。特に心エコーは必須の検査です。
  1. 胸部X線検査:心臓の大きさや肺うっ血の有無を確認
  2. 心電図検査:不整脈や虚血性変化を評価
  3. 心エコー(超音波)検査:心臓の大きさや収縮・拡張機能、弁の状態を詳細に確認
  4. 血液検査(BNPやNT-proBNPなど):心臓に負荷がかかると分泌されるホルモン量を測定
  5. 運動負荷試験:運動時の心臓機能や症状の出方を調べる
  6. 心臓カテーテル検査:虚血性心疾患や弁の評価が必要な場合に実施
Q7. 治療に関して教えてください。
A7. 心不全の治療の必要性:心不全は進行すると日常生活の質(QOL)を大きく下げ、命に関わるリスクも高まります。適切な治療を受け、生活習慣を整えることで、症状や予後が大きく改善する可能性があります。

主要4薬(その治療効果の高さが大規模研究で示されており、「ファンタスティック・フォー」と呼ばれ基本的に必須の薬剤です)の概要

1. レニン・アンジオテンシン系阻害薬:ACEi(アンギオテンシン変換酵素阻害剤)、ARB(アンジオテンシン受容体拮抗薬)、ARNI(アンジオテンシン受容体・ネプリライシン阻害薬)

  • ACEiまたはARBから開始し状態が安定していることを確認後にARNIへ変更する。
  • 血管の緊張を和らげ、心臓の負担を軽減
  • 心不全の死亡率と入院率を大幅に低下させるエビデンスあり

2. β遮断薬(βブロッカー)

  • 交感神経の過度な作用を抑え、心臓の働きを安定
  • 心臓リモデリング(心臓の形態変化)の進行を抑制し、ポンプ機能に適切な形態を維持します

3. SGLT2阻害薬

  • 糖尿病治療薬として開発されたが、心不全や腎臓病にも効果があることが確認
  • 余分な水分やナトリウムを排出し、心臓の負担を軽減

4. MRA(ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬/アルドステロン拮抗薬)

  • 体内の塩分や水分の調整を改善し、むくみや血圧をコントロール
  • 心臓に有害な線維化を抑える

その他の治療

  • 利尿薬(ループ利尿薬、選択的競合的バソプレシン受容体拮抗薬)、ベリシグアト、イバブラジン、ジゴキシンなど症状や病態に応じて追加
  • 両心ペースメーカーによる心臓再同期療法(CRT)や植込み型除細動器(ICD)などのデバイス治療
  • 重症例では心臓移植や補助人工心臓など
Q8. 心不全の患者さんが日常生活で気をつけること
A8.
  • 塩分制限:高血圧やむくみを悪化させないために、1日6g未満(日本循環器学会推奨)を目安
  • 水分管理:むくみや体重増加がある場合は水分摂取量を医師と相談
  • 適度な運動:医師と相談のうえ、散歩など無理のない範囲で行う
  • 禁煙・節酒:喫煙や過度の飲酒は心臓に大きな負担
  • 体重測定:毎日同じ条件(朝起きて排尿後など)で測定し、急激な増加(2-3日で2kg以上)に注意
  • 定期受診と自己管理:症状が少なくても定期的に通院し、薬の飲み忘れを防ぐ

心不全は、適切に治療すれば症状を和らげ、長期的な予後の改善が期待できます。ご自身の心臓を守るためにも、積極的に治療と生活管理に取り組んでいきましょう。

診療案内

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