
心肥大と心拡大
Cardiac hypertrophy and Cardiac dilation
心肥大と心拡大とは
心臓は全身に血液を送り出すポンプとして絶え間なく働いていますが、その負担が増えると、形態や大きさが変化することがあります。その中でも「心肥大(しんひだい)」と「心拡大(しんかくだい)」は、どちらも心臓が大きくなるという点では共通しているものの、原因やメカニズムに違いがあります。
心肥大は、心臓の壁が厚くなることで、外部に広がるのではなく内部に向かって厚くなるため、心臓自体のサイズは大きくなりません。
一方、心拡大は心臓の部屋が広る(容積が増える)ので心臓のサイズ自体が大きくなります。
健診などで行われる胸部レントゲンは心臓の大きさ(心臓全体の影)を見ることはできても、心臓の内部を見ることができないので心臓壁の厚さは見ることはできません。
したがって、胸部レントゲンで「心肥大」と指摘されても、正確には「心拡大」を指しています。心肥大の正確な診断と評価には心エコー検査が必要です。心電図では心肥大を示唆する異常を示すことがあり、やはり心エコーによる確認が必要です。
また、心エコーは心拡大に対しても心臓の部屋がどの程度広がっているのか正確な評価が可能です。心エコーは、患者さんの負担が少なくかつ簡便に心臓の状態を詳細に調べることができる極めて有用な検査です。
心肥大と心拡大症によって引き起こされる病気
心肥大は医学的には「心筋(しんきん:心臓をつくる筋肉)の肥大」を指します。
高血圧や心臓弁膜症(弁が狭くなる、あるいは逆流する病気)などで心臓にかかる負荷が大きくなると、心筋の細胞一つひとつが太くなることで、心臓全体の筋肉が厚くなります。
また、遺伝的な要因で発症する肥大型心筋症も重要な原因疾患です。
必要以上に厚くなった心臓は固くなって拡張できなくなり結果ポンプ機能が低下し、「収縮機能が維持された心不全(HFpEF)」を発症します。
高血圧が長期間続くと左室(さしつ:左心室)が厚くなる左室肥大が代表的で、心不全患者の50%以上を占めるとされています。
高血圧は、「心不全パンデミック」の大きな原因と認識されており、その治療と管理が重要です。
心拡大は、心臓の内部の部屋が拡張して容量が大きくなる状態を示します。
たとえば心筋梗塞(こうそく)後や拡張型心筋症では、心筋の収縮力が低下して血液を送り出しにくくなるため、血液を貯めることで収縮力を補おうとして心臓の部屋が広がる(拡張する)場合があります。
そして拡張が限界に達すると心収縮力の低下を補うことができなくなり「収縮機能の低下した心不全(HFrEF)」を発症します。
心肥大と心拡大はいずれも放置すると心不全へ進行するリスクが高まるため、早期発見と適切な治療が重要です。
治療の基本は原因に応じたアプローチで、高血圧があれば血圧コントロール、心臓弁膜症があれば弁の修復や置換手術、心不全や心筋症の場合は薬物療法などが行われます。
生活習慣の改善(塩分を控えた食事、適度な運動、禁煙、適切な睡眠など)も、心臓の負担を軽減するうえで欠かせません。
このように、心臓が大きくなるといっても、筋肉そのものが厚くなる「心肥大」と、部屋が広がる「心拡大」では原因や対処法が異なります。
定期的な検診や心エコー検査などで、自身の心臓の状態を把握し、必要があれば循環器の専門医へ早めに相談しましょう。