肥大型心筋症

Hypertrophic cardiomyopathy

概要

肥大型心筋症(HCM)は、主に遺伝的要因で心筋が過剰に肥大し、血液の流れを妨げる病気です。とくに閉塞性では左心室の出口が狭まり(左室流出路狭窄)、息切れや胸痛、失神などを起こしやすく、突然死のリスクも高まります。

標準的な治療にはβ遮断薬やカルシウム拮抗薬、外科的手術などが含まれますが、近年、心筋の収縮力を調節するミオシン阻害薬のマバカムテン(Mavacamten)が登場し、狭い出口を改善して症状の軽減が期待されています。
定期的な検査と症状管理が不可欠で、早期から医師の指導を受け、適切な治療を続けることが長期的な安全と生活の質の向上につながります。

診療方針

当クリニックでは日本循環器学会、欧米循環器系ガイドライン、およびオンライン医学テキスト「Up to Date」に準拠します。

ガイドライン最新版(2025年2月時点)
  • 日本循環器学会 / 日本心不全学会合同ガイドライン 心筋症診療ガイドライン(2018年改訂版)
  • 2024 AHA/ACC/AMSSM/HRS/PACES/SCMR Guideline for the Management of Hypertrophic Cardiomyopathy
  • 2023 ESC Guidelines for the management of cardiomyopathies

初診時の主な診療内容

1. 身長・体重測定、院内血圧測定(2回測って平均値を取ります)

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問診と診察 現在および過去の健康問題や現在の症状に関して詳細なお話を伺い、心臓の聴診などの診察を行います。
検査 心電図、ABI、胸部レントゲン、心エコー、ホルター心電図検査、血液生化学検査、尿検査などを行います。
特に心エコーは、心臓の構造(左室肥大の程度と範囲や閉塞性・非閉塞性の区別など)とポンプ機能を評価する上で必須の検査となります。

2. 診察と検査結果に基づき診断および状態の評価を行います。

診断に当たって重要なことは、心臓ポンプ機能と動脈硬化リスクの評価も併せて行うことです。心筋症の患者に対しても動脈硬化の主な下記リスクに関して評価が必要です。

  • すでに動脈硬化性疾患(狭心症や心筋梗塞、脳卒中、末梢動脈疾患)を起こしたことがある方
  • 糖尿病
  • 脂質異常症(特に高LDLコレステロール血症)
  • 高血圧症
  • 喫煙者
  • 慢性腎臓病(CKD)

3. 治療方法

評価と診断(分類)に基づき治療方針を決定します。基本は薬物療法です。

肥大型心筋症に用いられる薬剤には下記がありますが、症状や型(閉塞性・非閉塞性)や心不全・不整脈の有無に基づいて選択します。

  1. β遮断薬
  2. 非ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬(ジルチアゼムやベラパミル)
  3. 抗不整脈薬(ジソピラミドやシベンゾリン)
  4. ループ利尿薬

再診に関して

お薬による治療開始時には1ヶ月ごと、状態が安定してからは2-3ヶ月ごとの定期通院が必要です。

肥大型心筋症 Q&A

Q1. 心臓肥大と肥大型心筋症はどう違うのでしょうか?
A1. 一般的に“心臓肥大”は、心筋(心臓の筋肉)が厚くなっている状態を幅広く指す言葉です。 高血圧などで心臓に負担がかかり壁が厚くなる場合もあれば、運動習慣のある健康な方でも一定の肥大が生じることがあります。 一方、肥大型心筋症(HCM)は、主に遺伝的な要因や特定の蛋白(たんぱく)の異常によって心筋が過剰に肥大する病気で、血液を送り出す流れが障害されやすい点が特徴です。 HCMでは、左心室(全身に血液を送る部屋)の壁が不均一かつ極端に厚くなる場合が多く、しばしば“閉塞性”と呼ばれるタイプでは血液の通り道が狭くなり症状が強く出ます。 心臓肥大が健診で見つかったからといって必ずHCMとは限りませんが、疑われる場合は心エコー(超音波)検査やMRIなどを行い、原因を正確に評価する必要があります。特に閉塞性HCMでは心不全や不整脈、突然死のリスクが高いと報告されているため、専門医による慎重な診断が重要です。
Q2. 肥大型心筋症の原因は何ですか?
A2. 肥大型心筋症(HCM)の大きな要因は遺伝(常染色体優性遺伝)が多いとされています。親から子へ受け継がれる場合、心筋たんぱく質を作る遺伝子に変異があることが多く、これによって心臓の筋肉が過剰に収縮して厚くなりやすくなります。 ただし、家族歴がない散発性(さんぱつせい)ケースもあり、こうした場合でも原因となる遺伝子変異が見つかることがあります。 また、高血圧などによる生理的な肥大とは異なり、HCMは筋肉の厚くなる部位が偏ったり、心臓の形態が不均一になるのが特徴です。生活習慣だけで発症するわけではありませんが、心臓への過度な負担が合併すると症状が悪化しやすいことが知られています。 診断のためには、家族歴の聴取や遺伝子検査を行う場合もあり、患者さん一人ひとりの病状を正確に把握することが重要です。
Q3. どのような検査を受ければ正確に診断できますか?
A3. 肥大型心筋症の診断には、まず心エコー(超音波)検査が基本となります。これによって、心臓の壁がどれくらい厚くなっているか、血液の流れがスムーズにいっているかを手軽に確認できます。 さらに心電図やホルター心電図(24時間心電図)を用い、脈の乱れ(不整脈)が起こっていないかを調べます。MRIは、心臓の構造をより細かく映し出せるため、壁の厚みや線維化(筋肉が硬くなる現象)の程度を把握しやすい利点があります。 症状が強い方や手術を検討している方などは、心臓カテーテル検査を行って、心臓内部の圧力や冠動脈の状態を詳しく調べることもあります。家族性が疑われる場合は、遺伝子検査(※3)で原因遺伝子の有無を確認する場合もあります。
Q4. 症状がない段階でも危険な状態になることはありますか?
A4.
はい、肥大型心筋症(HCM)は症状が軽度あるいは無症状でも、将来重大な合併症を起こす可能性があります。 特に閉塞性のタイプでは、普段は問題なくても、脱水や激しい運動、ストレスなどで突然心臓への負荷が増すと血液の流れが急激に障害され、失神(意識を失う)や胸の痛み、息切れを引き起こすケースがあります。 また、不整脈が起きやすい傾向があり、中には致死的な心室頻拍(しんしつひんぱく)や心室細動(危険な脈の乱れ)による突然死に至るリスクも報告されています。 そのため、無症状でも定期的な受診や検査で心臓の状態をチェックし、リスクを早期に把握することが大切です。特に家族歴がある方や、健診などで心臓肥大を指摘された方は、早めに循環器専門医の評価を受けることをお勧めします。
Q5. 運動制限は必要でしょうか?
A5. 肥大型心筋症の患者さんにとって、運動は心臓に負担をかけすぎないよう注意する必要があります。 特に閉塞性タイプで、血液の出口が狭くなっている方は、激しいスポーツや瞬発力を必要とする運動によって急激に心拍数が上昇し、血液供給が追いつかず失神や重篤な不整脈を起こすリスクがあります。 欧米や日本のガイドラインでは、競技レベルのスポーツや筋力トレーニングなどの高強度運動を控えるよう推奨されています。一方で、まったく運動しないと体力が低下し、かえって心臓に負担がかかる場合もあります。 したがって、主治医や専門医の指導のもと、ウォーキングや軽めの筋力トレーニングなど、心拍数を急激に上げない範囲で定期的な運動を行うことが推奨されます。適切な運動量や運動強度を判断するには、定期的な心臓検査や医師のアドバイスを受けるのが安全です。
Q6. 放置した場合、どのような合併症やリスクがありますか?
A6. 肥大型心筋症を放置すると、心臓の壁の肥大が進行し、血液の出口が狭くなる閉塞性タイプでは、失神や胸の痛み、息切れなどの症状が悪化する可能性があります。 さらに、心臓の拍動が不規則になる不整脈が生じれば、脳梗塞の原因となる血栓ができやすくなったり、命に関わる重篤な心室性不整脈を引き起こすリスクも高まります。 とくに若い方でも突然死が報告されており、無症状だからといって安心はできません。また、進行すると心臓のポンプ機能が低下し、いわゆる心不全の状態になり、日常生活で動くことさえ困難になる可能性もあります。 こうした合併症は発症すると生命予後に深刻な影響を及ぼすため、症状がなくても定期的な検査と適切な治療を受けることが重要です。
Q7. 治療はどのような種類がありますか?
A7. 肥大型心筋症の治療は、患者さんの病状や閉塞の程度によって異なります。薬物療法では、心拍数や血圧を下げて心臓の負担を軽くするβ遮断薬や非ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬がよく使われます。 閉塞が強く、症状が重い場合は、外科手術で厚くなった心筋を切除する「心筋切除術」や、カテーテルでアルコールを注入して局所的に心筋を壊す「経皮的中隔心筋焼灼術」を行うことがあります。 また、不整脈による突然死のリスクが高い方には、電気ショックで致死性の不整脈を止める植え込み型除細動器(ICD)の装着を検討します。最適な治療法は専門医による総合的な評価で決まり、定期的に再評価して必要に応じて治療を追加・変更します。
Q8. 薬物療法ではどのような薬が使われますか?
A8. 肥大型心筋症(HCM)の薬物療法では、まず心拍数や血圧を抑えて心臓の負担を軽くするβ遮断薬や、心臓や血管をやわらかくして血圧や動悸を抑える非ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬(ジヒドロピリジンやベラパミル)が中心です。これらは、血液の出口が狭まる(左室流出路狭窄)「閉塞性」のタイプに対して特に有効で、左室流出路狭窄を改善することで胸の痛みや息切れ、動悸などの症状を和らげます。 これらの薬剤によって症状の改善が乏しい場合には、抗不整脈薬であるジソピラミドやシベンゾリンも左室流出路狭窄を改善し症状を和らげるために使用が検討されます。症例によっては、不整脈対策として抗不整脈薬や血液をサラサラにする抗凝固薬が使われることもあります。 さらに、重い息切れや失神のリスクが高い場合には、外科的治療やカテーテル治療と組み合わせて治療計画を立てます。
加えて、最近ではミオシン阻害薬(心筋の収縮力を調節する薬)が新たな選択肢として注目されています。その代表例がマバカムテン(Mavacamten)です。これは心臓の過度な収縮を抑えて、左心室の出口が狭くなる(左室流出路狭窄)のを防ぎ、症状の改善や運動耐容能の向上が期待できます。日本では未だ未承認ですが、米国や欧州などの大規模臨床試験(例:EXPLORER-HCM試験)でもで有効性と安全性が示され、既に実臨床で使用され始めています。投与量の調整や心機能の定期的な評価が重要となるため、専門医のもとで慎重に管理が行われます。 薬剤の選択や組み合わせは、患者さんの年齢、合併症、閉塞の程度、不整脈の有無などによって変わるため、定期的な診察と検査で治療方針を随時見直すことが大切です。いずれの薬も副作用や相互作用の可能性があるため、医師や薬剤師と相談しながら服用を続けるようにしましょう。
Q9. 生活習慣で特に注意すべきことは何ですか?
A9. 肥大型心筋症の方は、心臓に急激な負担をかけないよう、日常生活でいくつかのポイントに気をつける必要があります。 まず、過度な飲酒や喫煙は血圧や心拍数を上昇させ、不整脈を誘発しやすくするので控えましょう。また、塩分の摂りすぎは高血圧を招き、心臓に余計な負担がかかるため、食事はできるだけ薄味を心がけます。 水分不足も血液の粘度を高めて危険な不整脈を起こしやすくするため、適度な水分補給を忘れないことが大切です。 さらに、睡眠不足やストレスが重なると交感神経が活発になり、心拍数や血圧が上がりやすくなります。適度な運動やリラクゼーション法を取り入れ、ストレスを上手にコントロールすることが望ましいです。
Q10. 定期的なフォローアップはどのくらいの頻度で必要ですか?
A10. 肥大型心筋症は無症状の期間が長い場合でも、突然症状が現れたり、不整脈が生じるリスクがあり、定期的な受診が欠かせません。 基本的には、通常1〜3ヶ月おきの診療で薬の調整や検査を行います。少なくとも年に1回は心エコーや心電図、必要に応じてMRIなどの検査を行い、心臓の壁の厚みや血流状態、不整脈の有無を確認します。 専門医の指示を守り、急な体調変化があれば早めに相談することで、合併症や突然死のリスクを抑え、長期にわたって安全に生活することが期待できます。

診療案内

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