心電図異常
Abnormal Electrocardiogram
健診で「心電図に異常」と言われた方へ
心電図はとても敏感な検査です。わずかな電気のゆらぎまで検出するため、健康な方でも 10 人に 1~2 人は「要再検査」と判定されます。 しかし再検査の結果、約 9 割は病気が見つからないことが分かっています。まずは落ち着いて、以下のポイントをご確認ください。
1.検査が敏感であることを理解しましょう
心電図は小さな変化も拾う「高性能センサー」です。
判定で「陽性(異常)」と出ても、多くは問題がないことが分かっています。
2.波形は体調や体質でも変わります
若い男性や運動選手に多い「早期再分極」は正常範囲内の変化です。
寝不足・発熱・コーヒー・ストレス・薬の副作用・血液中のミネラル不足なども波形を変えます。
電極の貼り方や体格の違いでも波形はずれることがあります。
3.「要観察」は“経過をみましょう”のサイン
健診の判定は信号機の黄色に似ています。 症状がなく、軽い所見が単独で出た場合:生活を整え、1~2 年ごとの再検査で確認します。 胸痛・動悸・めまいがある、または複数の所見が重なる場合:心臓超音波、24 時間ホルター心電図などを追加し、安全を確認します。
4.万一病気でも、早期発見は大きな味方
狭くなった血管や危険な不整脈は、薬・カテーテル治療・生活改善で進行を抑えたり、完治できたりします。健診での「ひっかかり」は、そのチャンスを逃さないための早期警報と考えてください。
よく見つかる心電図所見と今後の診療の流れ
| ST-T異常 | 心臓の血管が狭い、心肥大、高血圧、貧血などで波がゆがむサインですが、特に問題がないことも多い所見です。胸の痛みや息切れがあれば早めに受診してください。血液検査と24時間ホルター心電図、心臓超音波検査や CT で原因を確かめ、病気が見つかれば薬やカテーテルで治療します。 |
|---|---|
| 電気軸のずれ:左軸偏位、右軸偏位 | 心臓を流れる電気の向きが右または左に寄っています。心臓の位置の違いや体格差でも起こりますが、高血圧や肺の病気、心臓の壁が厚い場合、心臓の電気の流れが悪い場合にも見られます。心臓超音波検査で弁や心臓壁の厚さや動き、内腔の大きさを調べます。 |
| 完全右脚ブロック | 心臓右側への電気の伝導が途切れる状態です。多くは生まれつきか年齢による変化で無症状ですが、動悸や失神があれば 心臓超音波検査や24 時間ホルター心電図で詳しく調べます。ほとんどは問題がなく日常生活の制限は不要です。 |
| 完全右脚ブロック | 心臓右側への電気の伝導が途切れる状態です。多くは生まれつきか年齢による変化で無症状ですが、動悸や失神があれば 心臓超音波検査や24 時間ホルター心電図で詳しく調べます。ほとんどは問題がなく日常生活の制限は不要です。 |
| 完全左脚ブロック | 左側の太い電線が途切れ、心臓の動きがそろわなくなることがあります。息切れや胸の重さが出た場合、心筋症や心筋梗塞などの原因を心臓超音波検査などで原因を探し、薬、カテーテル治療、特殊ペースメーカーを組み合わせて対処します。 |
| 左脚前枝/後枝ブロック | 左側の細い電線が遅れる状態です。単独なら経過観察で済むことが多いですが、高血圧や血管の詰まりのサインとなる場合もあります。心臓の電気が完全に遮断される前兆のこともあり、ちゅ心臓超音波や運動負荷検査で原因を探し、注意深い経過観察が必要となることもあります。 |
| 左室肥大 | 高血圧などで心臓の壁が厚くなっていたり肥大型心筋症で認められます。放置すると心不全を起こし、息切れや浮腫の原因になります。心臓超音波で壁の厚みとポンプ力を測り、必要なら薬を追加します。 |
| 期外収縮(心室/上室) | 脈が一瞬飛ぶように感じる拍動。ストレスなどで増えることが多い。回数が多いときは24時間ホルター心電図で確認し、生活を整えるたり薬で脈を抑えます。 |
| 心拍が遅い(徐脈)・速い(頻拍) | 安静時に脈が 60 未満(遅い)または 100 超(速い)が続く状態です。運動習慣・発熱・薬の影響が主な原因です。病的な場合は、貧血(血液の減少)や甲状腺異常、心不全のこともあり、血液検査と心エコーや 24 時間ホルター心電図で調べ、必要なら薬やペースメーカーを使用します。 |
| 房室ブロック | 心臓の上と下をつなぐ電線の不具合で、不具合の程度によって1〜3度に分類されます。電気が少し遅れたり完全に遮断されたりします。症状はほとんどないことが多く、薬の副作用や年齢が原因のことが多く、この場合は特に治療の必要はありません。しかし、電気が遮断される程度が高度〜完全の場合は、ペースメーカー移植術が必要になります。 |
| 心房細動 | 脈のリズムがバラバラになり、時に脈拍が速くなる不整脈です。心臓内に血栓を作り脳梗塞の原因になるため注意が必要です。24時間ホルター心電図で不整脈の評価を行い、心臓超音波で心機能や弁の状態および心臓内血栓の有無を確認し、血栓症のリスクを評価して必要に応じて血液をさらさらにする薬(抗凝固薬)を始めます。不整脈に対しては、薬やカテーテルで治療が必要になります。 |
| QT延長 | 心電図の「休み時間」が長くなる状態で、突然の心停止につながる不整脈を起こすことがあります。電解質(ミネラル分)の異常や薬剤性のことが多いため、血液検査でミネラルを確認して補正、原因薬剤を同定して中止もしくは変更します。稀ですが遺伝性のこともあり、必要性を評価の上脈を整える薬や除細動器を移植することもあります。 |
| WPW症候群 | 心臓は電気で動くポンプです。その電気を心臓全体に伝えるための電線がありますが、WPW症候群の方は生まれつき余分な電線があります。この余分な電線を流れる電気が心電図で見えています。この病気は、脈が急に 150 以上に跳ね上がる発作を起こすことがあります。検査で危険度を判定し、薬剤でコントロールしたりカテーテルで余分な電線を焼いて治療します。 |
| ブルガダ型波形 | ブルガダ型波形は、胸部右側誘導(V1〜V3)の心電図に山形のST上昇が出る遺伝的なリズム異常のサインです。心電図波形のタイプによって、無症状でも夜間や安静時に命に関わる心室頻拍や心室細動を突然起こすことがあります。必ず循環器内科を受診して専門医の診療を受けましょう。失神や心停止の既往がある方には植込み型除細動器(ICD)が最も確実な再発予防策です。 |
追加検査が大切な理由
症状がない軽い所見は 1~2 年おきの再検査で十分な場合が多いです。 胸の痛み・動悸・めまいがある、または複数の所見が重なる場合は、心臓超音波、24時間ホルター心電図、CT などで詳しく調べ、安全を確認します。 もし病気が見つかっても、薬・カテーテル治療・生活改善で多くはコントロールできます。
まとめ
心電図で「異常」と出ても、すぐに病気が確定するわけではありません。ただし中には見逃せないサインもあります。心電図異常は多彩で上記以外の異常も多くあり、健診結果を持って循環器専門医に相談し、症状と追加検査の結果を合わせて判断しましょう。必要な検査と生活改善を進め、安心・安全な毎日をお過ごしください。
