バセドウ病
HYPERTHYROIDISM
甲状腺機能亢進症
甲状腺機能亢進症は、体内の甲状腺ホルモンが通常よりも過剰に産生された状態をさします。
原因は多岐にわたりますが、成人の甲状腺機能亢進症で最も多いのはバセドウ病です。
バセドウ病
自己免疫の機序により甲状腺のホルモン合成が亢進する疾患です。
甲状腺から多量のホルモンが分泌されると、ホルモン受容体を介して甲状腺中毒症と呼ばれる病態を引き起こします。動悸、発汗、体重減少、手指振戦（手の震え）のほかに甲状腺の腫れや、眼の症状を伴うことがあります。
男女比では女性に多く、好発年齢は20～40歳代とされますが、高齢化とともに70歳以降に発症する例も報告されています。
バセドウ病の明確な原因は分かっていませんが、遺伝的要因に加え環境要因（喫煙、ストレス、妊娠、感染など）が複数関与して発症するとされます。
治療しないと甲状腺クリーゼと呼ばれる生命を脅かす病態に進展しかねないため、注意が必要です。
症状・徴候
甲状腺腫
甲状腺の腫大、ときに甲状腺腫瘍の合併がみられる。
甲状腺機能亢進症に伴う症状
動悸、息切れ、発汗・暑がり、体重減少、手指振戦（手の震え）などが代表的です。
体重減少については、若年では顕在化しない場合もあります。
眼症状
眼球突出、眼瞼腫脹（まぶたが腫れる）、複視（物が二重に見える）など。
皮膚症状
出現頻度は比較的稀ですが、前脛骨粘液水腫（足のすねの皮膚症状）が代表的です。
検査
血液検査で甲状腺ホルモン（FT3, FT4）や甲状腺刺激ホルモン（TSH）の濃度を測定します。自己免疫が関与するため、自己抗体であるTSHレセプター抗体(TRAb)やTSH刺激性レセプター抗体（TSAb）などを精査します。
他疾患との鑑別のために、甲状腺超音波（エコー）検査や核医学検査（シンチグラフィ）を用いる場合もあります。
心疾患合併の有無を精査するため、心電図や胸部レントゲン、必要に応じ心臓超音波検査を実施します。
治療方法
評価と診断に基づき、基本治療方針を決定します。
大きく分けて、下記3つがあります。
それぞれに長所・短所があり、全身状態や経過、患者さんの希望などを総合的に判断し治療法を選択します。副作用出現や病状の変化、治療変更希望などが生じる可能性があるため、臨機応変に対応いたします。
薬物療法（抗甲状腺薬、無機ヨウ素薬）
薬物療法は国内で最も多く行われる治療法であり、外来で治療を始めます。
経過や副作用の有無、腫瘍の合併、眼症などの状況によっては、他の治療が検討されます。抗甲状腺薬には、チアマゾールとプロピルチオウラシルがあります。
副作用の有無を確認するため、開始から3か月目程度は原則2～3週間ごとの通院が必要です。
無機ヨウ素は診断後早期に、上記の抗甲状腺薬との併用療法や、抗甲状腺薬が副作用で使用できない際などに一時的に使用する場合があります。
放射性ヨウ素内用治療（アイソトープ治療）
19歳以上が対象です。適応としては、抗甲状腺薬で重篤な副作用が出現した場合や、薬物療法でコントロール不良例、手術後の再発例などが挙げられます。一方で妊婦さんや授乳中の方、重症の甲状腺眼症例では適応外となります。
国内で実施できる施設が限られるため、必要時は適切な医療機関にご紹介いたします。
手術
適応は、甲状腺癌などの腫瘍を合併した場合や、副作用のため抗甲状腺薬が使用できず、かつアイソトープ治療を希望しない場合、薬剤でコントロール不良例、妊娠希望の方で抗甲状腺薬が使用できない重症例などになります。
妊娠性一過性甲状腺機能亢進症
一般妊婦さんの2～3％程度に認められるといわれます。
妊娠初期に胎盤で作られる性腺刺激ホルモン（ヒト絨毛性性腺刺激ホルモン：hCG）による、TSH受容体（ホルモンを受け取る構造）の刺激作用に由来して、甲状腺機能亢進が生じることがあります。
妊娠10週前後に多く見られ、妊娠中期以降はhCG濃度が低下するため甲状腺機能は改善、自然に軽快します。治療は悪阻などへの対症療法が中心となります。
機能性結節（プランマー病）
比較的稀な疾患ですが、甲状腺の結節病変の中で、結節自体が自律的に甲状腺ホルモンを分泌するものを機能性結節性甲状腺腫とよびます。
検査
血液検査で甲状腺ホルモン高値を認めます。甲状腺超音波検査で結節を認めます。バセドウ病とは異なり結節からのホルモン分泌のため、核医学検査（シンチグラフィ）でhot spotを証明することで診断します。
治療
根治のためには外科的手術や放射線療法などが必要になります。
甲状腺の概要は甲状腺疾患を参照ください。
